『仕事を終えて』

「オイデ……」
 数日ぶりに家に帰ると、ベッドの上で笑顔を浮かべてくれるスライム族の彼女。体にしなを作りながら、私に向けて笑顔で手招きしてくれいる。
 連続の徹夜と残業で心底疲れきっていた私は、ふらふらとおぼつかない足を何とか動かしながらも、彼女の元へと辿り着き、そのまま倒れ込んだ。
「ごめんよ……家に帰れなくて。部下と上司が同時にヘマをやらかして、その対応に追われていたんだ……寂しい思いをさせたね……」
 いや、むしろ寂しい思いをしていたのは私かもしれない。こんなにも長時間、彼女と離ればなれになって、恋しいと思わない筈がない。
「ウウン、イイノ。ダッテ……カエッテキテクレタンダカラ……♪」
 彼女は最近、私達の言葉を話すようになった。少しでも一緒にいて嬉しいように、彼女が私に配慮してくれているらしい。まだ片言だが、私のために何かしてくれているというのが、たまらなく嬉しいのだ。
「モロコ……」
 彼女の名前を呼びながら、私はゆっくりと彼女を抱く。同時に彼女も、私に腕を伸ばしてくる。
「アナタ……」
 モロコは腕を袖口から液状化させて侵入させていく。疲れで火照った体を冷やしていくように広がる彼女の体が、堪らなく気持ちがいい。
 見ると、私の股間では愚かな息子がテントの骨組みを組み立て始めていた。それに気付いたモロコは、思わずくらっとしそうな淫靡な笑みを私に見せつけながら、耳元で囁いた。

「ヌイデ……。イッショニ、キモチノイイユメヲミマショウ……?」

 聞くが早いか、モロコの腕は内側から背広のボタンを外し始め、全て外し終わったらワイシャツのボタンを、それすら外し終わったらシャツごと全て脱ぎとってしまった。背広やワイシャツはその後伸ばした腕でハンガーに綺麗にかけてくれる辺り、彼女は至って気が利く。背広やシャツを脱がし終わる前に、私は既にズボンのベルトとチャックを外し、脱がしやすいようにセットしておく。そして全身の力を彼女に預けると、後は彼女が、私の体を覆うように体を伸ばしていって、パンツや靴下まで全てを脱がしていった。
「んんっ……ああっ……」
 静電気のようにピリピリとする刺激が私の肌に走る。その感触がもどかしくて、私は小刻みに体を震わせた。一度走った場所は、その後段々と遠退いていくような、不思議な感覚に陥っていく……。
「フフフ……ンンッ」
 裸になった私の体を彼女が覆い尽くしたのを自ら確認すると、モロコは私の唇に優しく口付けをしてきた。そのまま深く、深く舌を差し入れてくる。
「ん……んんっ……んむぅ……」
 差し入れられた彼女の舌に私の舌を巻き付け、そのままお互いの熱を、唾液を交換しあう。モロコの唾液は――いや、体液はミルクのように甘い。だから彼女は『モロコ』と名付けられたという。
 甘いミルクの香りが口の中一面に広がっていく。私が巻き付けた舌を踊らせながら、どんどんと体を口に注ぎ込んでいるのだ。たちまち口の中まで全てスライムで埋め尽くされてしまう。
「ん……んんっ!?ん――んぅっ……」
 一瞬、私の呼吸が塞き止められた。彼女の舌の先端が喉を通り、気道を塞いでしまったからだ。だが次の瞬間には呼吸が今までよりも楽になっていく。スライムが直に酸素を肺で交換するようになったからだ。
「ンンン……」
 彼女の体が次々に私の体に入っていく。臓器を満たし、腸を覆い、中にあるもの全てを無害なものに変化させ吸収させて――。
「んむんんんっんんん……」
 グルグルとお腹が排泄感を訴えていたけど、私は何もする必要はない。それは、彼女のしてきた行為の最終段階を示すものだから。
「んおんむっ……」
 泡が割れるような音と一緒に、彼女の体が肛門を広げて溢れ出してきた。溢れ出したスライムはすぐさま彼女の体と同化していく。今や、私の体の中は彼女の通り道になってしまっていた。
「ウフフ……ッ」
 彼女の髪がうねうねと動き、私の顔を彼女の方にさらに引き寄せると、巻き付いて彼女と同化してしまった。そのまま旋毛の上まですっかり覆ってしまい――私は彼女の中にすっぽりと取り込まれてしまっていた。
『ウフフッ……うふふっ……疲れてるんでしょう?私が貴方の疲れを全部吸い取ってあげる♪』
 全身を取り込んだ状態では、モロコは私にテレパスで会話する。私は思うだけで、彼女に気持ちが伝わるのだ。
 くにゅ……くにょ……と優しく体を揉み解し始めるモロコ。痛みも感じない、痺れるような刺激。その中で、私の体に溜まっていた重たい凝りが解され吸収されていくのが、確かに感じられた。同時に、体の垢も彼女によって吸収されていく。体の全てが綺麗になっていく――そう感じられた。
『実際綺麗にしてるわ。生まれたてホヤホヤの……とはいかないけどね』
 彼女はそう私に告げると、そのまま反り立つ逸物をも、同じようにぐにゅ、ぐにゅと揉み始めた。
「(んおぅ……!)」
 新たに現れたばかりの肌は刺激に敏感に反応する。たちまち私の体からカウパー液が立ち上っていく。それは先端から溢れるのと同時に、彼女の中に吸収されていく……。
『ふふふっ……次は、白いのかな。ゆっくりと、ゆっくりと溢れさせてあげるね……♪』
 その声と同時に、腸の中に直接何かを注ぎ込んでいくモロコ。吸収されたそれは、たちまちのうちに全身を巡り、そのまま私の体の一点――股間に収束していく。次の瞬間。
「(……お……おっ……おお!)」
 溜まった何かが、尿道を少しずつ昇っていく……。射精の戦慄きもなかった逸物が、小刻みにぴくん、ぴくんと震えながら、中を進む液状物質を吐き出そうとしている。
 思わず逸物に力を入れてその流れを塞き止めようとする私に、
『ダメダヨ☆』
 とモロコは両の耳たぶを噛み、玉袋を軽く握る。
 たちまちのうちに力が抜ける私の逸物を、彼女は隙間なく覆い尽くして――。

 ぴゅる、ぴゅく、とく、とく、とく……

「(あぅっ……ああっ、ああ……あん……あ……)」
 普段の射精とは違う、短く、ゆっくりで、しかし優しく連続した射精。静かな解放感が続くなかで、私は心すら微睡みに溶けていきそうだった。
 とく……とく……とく……とく……とく……
『溶けて……いいのよ。ここが貴方の帰る場所なんだから……♪』
 静かに、背中を、後頭部を撫でられる感触がする。まるで赤ん坊だな、等と思いながら、赤ん坊という表現が言い得て妙だとも思った。
 彼女達には敵わない。全てを受け入れる、全てを委ねさせて安心させる母性的要素。それに関しては彼女達、スライム族には絶対に敵わないのだ……。

『ふふふっ……おやすみなさい。明日もまた、素晴らしい一日でありますように……』
 緩慢に閉じる意識が最後に捉えた言葉は、モロコからの労いに満ちた言葉だった……。