アリスの子供達

七海菜々。

それがあたしの名前。

回文になったのは偶然か必然かは知らないけど、多分――あの親だし、必然だと思う。

ま、あたし自身も気に入ってるけどね。

身長は158cm、体重48kgの至って標準体型。スリーサイズは秘密。趣味は読書とエクササイズな15歳。

長かった受験生活が一段落し、それなりの学校に合格し、ようやくほっと一息……が出来ると思ったんだけど……それも無理みたい。

だって、あたし――。


そもそものきっかけはいつで、一体何だっただろう。気付いた時には、私はいつも誰かに後を付けられていた。

下校時間、塾帰り、トモダチと遊びに行くとき……ふと、誰かに見られている感覚がするのだ。

「なぁ……大丈夫か?菜々」

彼氏の時正成語(ときまさせいご)に心配されたけど、正直、誰にも迷惑は掛けたくなかったから。

「気にしないで。大丈夫だから」

そう空元気を作って、無理矢理振る舞ったりした――多分バレバレだったけど。

その会話をしたのは近所の喫茶店。名前は『アイリスアリス』。不思議な名前でしょ?でも、ここのコーヒーとプティング、そしてパフェは絶品なの。成語はホットケーキをいつも注文していて、それも絶品みたい。

「シロップが違うんだろうな」

成語のこの意見に、あたしも賛成できた。だって、パフェの生クリーム、その上にかかってるのがチョコじゃなくてシロップだから、その美味しさを十分分かるのだ。

舌に当たった瞬間、広がるあの甘味――もう、最高。

――話がずれた。

兎に角、あたしは成語と喫茶店で話をしていた。そしていつものように席を立とうとした、その時――。

「じゃ、またあ――」

した、と言う二言を、あたしは言う事が出来なかった。その瞬間、あたしの意識が一気に暗転したのだ。

「――い――な、ど――」

成語の声が、遠雷のように響いた――。


「……ん……」

次に目を醒ました時、あたしの目に映る風景は完全に様変わりしていた。

「……何だろ、ここ……」

どこかの洞窟のような、岩盤剥き出しの壁、地面も全く何も舗装されていない。なのにそのいずれにもどこか光沢があり、壁にはカンテラが突き刺さって仄かに辺りを照らしている。それに――。

「何……?この霧は……」

光を幽かに翳らすような霧が、辺りに立ち込めていた。そこまで濃くはないので、辺りを簡単に見回す程度は出来るけど、遠くを見ることなど出来はしなかった。

分けが分からなかった。でも、ここで立ち止まっていたら、ずっとこのままでいそうな気がした。

「……とにかく移動しないと――」

とりあえず、壁に手を着いて歩き出した――その瞬間。

ほわぁ……。

「――?」

あたしの中で、何かの香りがその存在を主張し始めていた。ほんのりと甘くて、幽かに痺れるような、それでいて殆ど気にならないような――。

「……あれ?」

今、あたし何を考えてたっけ?今は兎に角、動かなくっちゃ……。

幽かに感じた香りの事を忘れ、あたしは壁に手を着いて歩き続けた………。

「………」

彼方にあるぼんやりとした光を目指して、あたしは壁に手をつきながら歩いていた………。

霧は徐々に濃くなっている気がした。視覚は役に立たないけど、目は開けていなきゃ転びやすくなる。転んだら無駄な体力を使っちゃう。あたしは、目指さなきゃならない場所があるんだ。

そう――クイーンの場所へ。

「――あれ?」

今、何でクイーンなんて言葉が浮かんだんだろう。あたしは出口の手がかりを求めて――

ほわぁ……

――クイーンの場所へ行く。

あ、そっか。こんなでっかい穴のような場所、カンテラがある時点で生き物がいるんだよね。それでその生き物は集団社会で、当然統率しているクイーンがいる。だから彼女に会いに行けば、万事解決、これはおかしくない理論だよね。

もはやあたしの頭は、クイーンと言う生物がいる前提で思考を組み立てていた。そしてそれを疑問に思う心すら、あたしの中から抜け落ちていった………。

「……女王……」

あたしはぼおっとした頭で、ひたすら前に歩き続けていた。

あたしを覆う霧は、目の前に光があるかすら怪しいくらい濃くなって、あたしの視界を完全に満たしていた。

ほわぁ………

「……あ……」

あまい香り……まるで綿菓子みたいにふわふわ……。

「女王……様……」

そうだ……女王様……この香りは……お招きしてるんだ……誰かを……だれかを………。

「……あぁ……じょお……さまぁ……」

あたしはふらふらと、霧の濃くなる方へと足を進めていった……。

霧の綿菓子に、包み込まれながら………。

そうして……。

突然、あたしの視界に流れ込む、大量の光。そのあまりの眩しさに、思わずあたしは目を瞑ってしまう。

「……ん……!」

暫くして、光に目が馴れた頃に、瞳を開くと――。

「わぁ………」

そこは夢のような場所だった。

桃色の空気が、夢心地にさせるように辺りを取り巻き、綿菓子のような霧が、ここをお菓子の城の大広間かと思わせるように彩る。

天井からは光が、まるで天国への階段を思わせるように地上へと降りて――。

『よく来てくれたわね』

あ……。

この声は……。

あたしが声のした方に視線を向けると、そこには……きれいな女の人が一人、マリンブルーのドレスを着て、笑顔であたしを――。

『こちらへ招いた甲斐があったわ。女王として、あなたを歓迎するわ、七海菜々』

じょおう……女王……女王様!

「あはぁ………」

私は嬉しかった!やっと女王様の元に辿り着けたんだ!これで……これで……えっと……。

………何するんだっけ?女王様にあって、何か大事なことをしなきゃいけなかった気がするんだけど………。

戸惑っているあたしの目の前で、女王様は笑いながらあたしに近づいてきて――。

ばふっ

「!!!!!!!!!!」

いきなり抱き締めてきた!あたしの頭程に大きい二つの3/4球が、あたしの頭を貪るようにうのうの、うにうにと撫で回していく――!

とっさの事で何も反応できず、思わず距離をとろうと押し退けようと、息を吸い――

ほわぁ……

………女王様の香りを胸一杯に吸い込んだ。やだ。何であたし、抜け出そうなんて思ったんだろう………。

女王様の胸は、全ての存在を優しく包んでくれる。暖かく、柔らかく、ずっと身を任せていても平気なように――。

女王様の香りは、あたし達に教えてくれる。大いなる母は女王様だって。あたし達は、女王様の子供なんだ、って――。

むにむに、うにうにとあたしを飲み込んでいく双球。命の証の音が、あたしをじょおーさまといっしょに――。

『さ、服を脱いで』

あ、そうだった。じょおーさまと会うときは、服はいらないんだっけ……。

「……はい……」

胸から解放されたあたしは、着ている服を次々と、脱ぎ捨てては畳んでいった。女王様に失礼が無いようにと、丁寧に。

「……////……」

下着に手を掛けて、下ろしたとき、あたしはちょっと恥ずかしくなった。だって、お母さん以外に誰にも見せたことのない、あたしのひみつの場所を、じょおーさまに見られちゃうんだもん。

『恥ずかしがらなくていいのよ』

いつの間にか、女王様も服を脱いで、裸であたしの前に立っていた。

「……わぁ……」

思わず、あたしは見とれてしまった。

慈母愛に満ちた顔は、それだけで芸能人なんて目じゃないくらい綺麗だし、肌は透けそうな程に白くて、華奢だ。しかも指先まで傷ひとつない。

さっきあたしを抱え込んだ巨大な二つのおっぱいは、何も身に付けていないのに大きく前に突きだして、いつでも誰かを受け入れられるようにしている。

そして――女王様の秘密の場所は、毛が一つもなくて、とてもきれいで――。

ほわぁ……。

「あ………」

やだ……あたし、じょおーさまのまえで、まだふくを……。

ぬがなくちゃ……。

あたしは、残りの衣服を全て脱ぎ払って、生まれたままの姿を女王様に晒していた。

改めて見直しても、あたしがいかに貧相な体をしているかがわかる。

幽かにくすんだ、やや荒れている肌、垂直降下もいいところの胸、短い腕と脚、そして、大して可愛くもない顔………それでもあいつは綺麗って言ってくれた……?

あれ?あいつって……えっと……。

ほわぁ……

……あれ、あたまが、ぼぉっと……。

……はずかしい。じょおーさまにみられて……。

『ふふふ、綺麗よ、その体』

……きれい?あたしのからだ、きれい?

『えぇ、綺麗よ』

……そういわれると、うれしい。でも……。

『もっと綺麗になりたいの?』

「うん」

あたしも、女王様みたいになりたい。

女王様みたいな体になりたい。

だって女王様……綺麗だから。

『ふふふ………』

女王様は、あたしから少し離れると、胸を主張するかのように少し弓反りになると――。

にちゃぬちゃぁっ………

女王様の秘密の場所がどんどん胸の方にまで広がって――大きく開いた。捲れ上がったその中には、幾つもの肉襞がぬちゃぬちゃと音を立てて蠢いて、内臓にも似た膨らみが、どくん、どくんと脈動している、グロテスクな風景が広がっていた……。

むわぁっ………

「――!?」

途端、あたしの中に広がる、女王様のあの甘い香り。脳に直接侵入してくるようなその芳香に、あたしは――。

「――あは?」

――完全に思考を失っていた。視界がぼやけるのが分かる。口の端から、何かが垂れ落ちていくのも、何となく。

『さぁ、おいで………』

ぐにゅぐにゅと、肉の壁がその体を揺らす。まるで、あたしを誘い込むように――。

そしてその度に、女王様の香りが、辺りを、あたしの心も、急速に桃色に染めていく――。

「あ……」

よんでる……じょおーさまが……いかなきゃ……あは……じょおーさま……きれー……。

自然とあたしの足は、ふらり、ふらりと女王様の方へ向かっていた。近づく度に、あたしの意識は、桃色の香りで夢心地になっていく。

やがて、女王様の前に辿り着いた瞬間――。

しゅるにゅるんっ

私の体は、一気に女王様の中に飲み込まれた。開いていた肉壁が、一気にあたしに纏わり付き、閉じると同時に押し込んだのだ。

『私の中で、貴女の望む姿に変えてあげる………』

女王様の声が、幽かに聞こえた………気がした。


『うふ、うふふふふ………』

菜々と言う人間一人を飲み込んだというのに、全くスタイルの変化がない女王の体。それが、徐々に変化していった。

『うふふふふ…………』

女王の髪の間からは、にょき、にょきと二本の触覚が飛び出ると、尾てい骨が大きく盛り上がり、そのまま凄まじい勢いで膨らみ始めた!

どんどん大きくなる膨らみ。その大きさは、女王の人間部分を何十人も詰め込めるほど――。

やがて――成長が止まった。瞬間、その膨らみはあまりに巨大な、昆虫の腹部のようなものを形成していった……。

さらに、背中に六本の筋が入ると、そこからトンボを思わせるような羽が、一気に付き出してきた!

『うふふ……さぁ……こっちよ……』

体の中にいる菜々に呼び掛けるように、女王は呟いた。その手を、さっき閉じたばかりの女陰に這わせながら……。


『こっちよ……』

……じょおーさまがよんでる……。

あたしは、体に纏わり付くぶよぶよの肉を掻き分けながら、声の響く方へ進んでいった。

ぶよぶよした肉は、ぬらぬらとした女王様の蜜を纏って、あたしに塗り込んでくる。その度に、

「……あはぁん♪」

あたしの中に、もどかしいような、不思議な気持ちが浮かんできちゃう。

「あはっ……い、いあ……」

それだけじゃなくて、時々肉自体が、あたしを揉み込むように優しく動く。産着を着せるように、全身隈無く蜜を塗りつけながら……。

女王様の声がしたところに着く頃には、あたしの全身は、蜜まみれになっていた。

……じょおーさま……

目の前にあったのは、人一人入れるくらいの大きさをした、楕円形のぷるぷるしたもの。穴が開いていて、そこから入れるみたい。

『さあ……入って……』

……じょおーさまぁ……

女王様の香りでくらくらしているあたしの中に、拒否の二文字など既に無かった。

「あ……あはぁ……」

あたしが体を屈めながら腕を伸ばすと――!

ずぼぉっ!

「!!!!」

その物体はいきなり腕を、体ごと飲み込んできた!そのまま、ずぬり、ずぬりとあたしを中に飲み込んでいく!

「!!!!」

驚いてただ脚をじたばたすることしか出来なかったあたしを――。

ずぬりゅん……きゅ

それは足の指先まで飲み込み、入り口を塞いでしまった………。

物体の中は不思議な液体で満たされていた。あたしは、まるでふわふわの毛布の中にいるように暖かい水の中を、ふわふわと浮いて漂っているような、不思議な感覚を味わっていた。

あたしを包む物体は、あたしの型を取るように、ゆっくりと、あたしの体に張り付いてくる……。

不思議と、息は苦しくもなかった。寧ろ、地上にいるよりも息苦しさがない……そんな感じがした。

ずっと、このままでいても、いいかな……。

いつの間にかあたしは、腕を曲げ、膝を曲げ、胎児のように丸まった格好をしていた。

「……あ……」

そんなあたしを、包み込んだ物体は優しく包み込み、さらに密着していく。皮膚そのものになってしまうんじゃないか、そう思えるほどに……。

ぐにゅ……ぐにょ……

「あ……あはぁ……」

あは……なにかが……あたしのなかに……。

包み込んだ物体が、あたしの体に何かを伸ばしてきた。口から、臍から、お尻から、秘密の場所から、ぐむぐむと何かがあたしの中に侵入していく……。

「んむぅ……」

口に何かをくわえている、ただそれだけで、あたしの中に安心感が広がっていく………。

体に入った何かは、次第にあたしの体と同化していく……。

とくん……とくん……

……あ……。

じょおーさまの、おと。

あたしのなかに、じょおーさまの、おと……。

あたしのなかからも、とくん、とくん……。

……あ……れ?

……あ……たし?

あた……し……って……?

『思い出して………』

あ……じょ……お……さま?

『貴女が何を望んでいるのか、何を求めているのか――』

じょ……お……さまぁ……。

次第に、あたしの意識は、闇へと滑り落ちていった………。


闇の中、あたしは不思議な光景を目にしていた。

(何だろ……ここ)

あたしの周りに、幾つかの水晶が浮かんでいた。そのそれぞれが、別々の光を放っていた。

それぞれを覗いてみると――。

(これは――あたし?)

一つ目の水晶に映っていたのは、一人で帰るあたしの姿。いつもの、あまりにも見慣れた通りで。

(あ……あたしあんな顔してたんだ……)

誰かに付けられているという恐怖、姿が見えないことの恐ろしさ。水晶に写るあたしの顔は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

(自分では大丈夫なつもりをみせていた……)

心の奥底は、悲鳴をあげていても、表面上は明るく振る舞おうとしていた……でも、顔には現れていたんだ……。

(………)

何となく、見ているのが辛くなってしまったから、あたしは次の水晶に視線を移した……。

(……成語……)

次の水晶には、あたしの彼氏の姿が。

(成語………)

付き合って、何年くらいだろう。いっつもあたしが心配かけたり、逆に心配したりしてたっけ………。

(せいごぉ………)

見ていると、何故か心の中が少し寂しくなってきた。

(あ……そっか……)

最近、ストーカーの事を心配かけたくないから、無理して遠ざかってたんだっけ……。で、偶然ばったり会って、そこであの喫茶店に二人で行ったんだっけ……。

(あぁ……せいごぉ……)

一緒にいたいよ……。

一緒に……なりたいよぉ……。

これ以上見ていても、辛くなるだけだったので、あたしは水晶から視線を外した。そして、残りの一つを覗き込んだ――。

(あぁ……)

じょおーさまぁ……。

きれー……。

最後の一つに映っていたのは、女王様の笑顔と、全身の姿。

(じょ……おー……さまぁ……)

アフロディーテが嫉妬するような美しい顔、絹糸で織られたかのように白く美しい肌、たぷたぷと揺れる巨大な胸は、垂れることなく張りを保っている。すらりと伸びた脚、ほっそりとした腕――。

それに、髪の間から飛び出した、二本の触覚、背中に生える三対の虹色の羽根、尾てい骨から生えているふよふよした大きな昆虫の腹部、全てがあたしにとって理想で、また、とてもいとおしく思えた。

(ああ………)

じょおーさまみたいに……。

「なり……たい……」

トクン………。

「……へ……?」

あたしの眺めている水晶が……小さく脈打った。

トクン……トクン……

それに合わせるように、他の水晶も、小さく脈打ち始める。

『これらは全て、貴女の願いの大元』

女王様の、声。その一言一言が、あたしの中に染み渡っていく……。

『私は、その願いを叶える体を、貴女にあげる』

あたしの目の前で、水晶が浮かび上がり、一つ一つが解け合い混ざり合っていき、やがて一つの、青色の小さな水晶玉になった。

それはふよふよと浮かびながら、あたしの胸の前で止まった。思わず両手を差し出して、その珠を受け止めた。仄かに暖かい。

トクン……トクン……

水晶に合わせて、あたしの心臓も音を鳴らしている。まるで、水晶があたしの心臓みたい……。

『さあ……《迷える子供(アリス)に道標を授けん》』

女王様の声が、辺りに響いた――瞬間。

ぱあぁぁぁぁあっ!

「わ――!」

手の中の水晶が激しく光り出した!暖かな青い光は、まるで意思を持っているかのようにあたしを包み込んでゆく――!

(――あ………)

青い水晶が、徐々にあたしの中に沈み込んでいく。胸元から、ずぶずぶと奥の方まで……。

やがて光が消えると、水晶は完全に、あたしの中に入り込んでしまった……。

とくぅん………

(………あ………)

……からだが、なんか、だんだん、ぽかぽか、ふわふわ、してきた、まるで、あたしが、あたしじゃ、なくなる、みたいに……。

すいしょうが、しずんだ、ばしょが、ぽうって、あおく、ひかって、ひかった、ばしょが、だんだん、ひろがって……。

とくぅん……とくぅん……

(……あ……あは……)

なんか、きもちいい……。

あたしの、からだが……。

あたしが……。

……かわってく。

すいしょうが、じょおーさまが、かえてく。

むずむずしたとおもったら、すぐきもちよくなって……。

いたくなくて……きもちいい……。

しゅるるるぅ………

「……ん……んうう?」

あれ?あたしのくちから、なにかがでてきて……あたしにまきついていく……。

「んうん……」

あ……ふわふわ、ふにふにしてる……。

まきついて……つつみこんで……いいかおり……。

このまま……ふぁ……ずっと……。

とくん……とくぅん………。


もしここで菜々の精神を見ることが出来る人間がいるとしたら、菜々の精神が青色の糸を吐き出して、繭を作っているのが見えただろう。

徐々に柔らかな絹糸に覆われていく菜々、その顔は、ただひたすら恍惚としていた。まるでこれから訪れる変化を待ち望んでいるかのように……。

やがて、青色の繭が、完成した……。


かわってく……。

からだが……。

こころが……。

あたしが……。

とくん……とくん……


『うふうん……んむうん……んんっ……あんっ♪』

ぽこんっ。

菜々を体に取り込んで数時間後、女王は卵を一個、巨大な蟲の腹部から産み出した。人が二人ほど丸々入っていそうな大きさのそれは、地面に落ちると、そのまま地面に張り付いた……。

とくん……とくん……

幽かに、卵から音が響く。生命の脈動が、女王の支配する空間に響き渡っていく……。

『ふふ……?さぁ、姿を見せてちょうだい?私の子供(アリス)……』

女王の声と一緒に、ぬちゃ……と音を立てて、卵が割れはじめて……。


あたしは、アリス。

女王様の子供。

七海菜々って言う名前は、人間で居るときの名前。

女王様が『いい名前ね』って言ってくれたから、あたしも気に入ってる。

この体も、女王様が『素敵な体になったじゃない』って、強く抱き締めてくれた。

だから、あたし、この体、大好き。

そして、この体をくれた女王様――大好き、だけじゃ表せない、どれだけ言っても足りないくらい大好き!愛してる!

だから……女王様のお願いも、あたし、叶えてあげたいんだ。

そのための体を、女王様からもらったんだから………。


「じゃーね~っ♪」

来る回数も残り少ない学校からの帰り道、あたしは友達と別れ、人目のつきにくい通りをわざと選んで歩いた。わざと「襲ってください」と言わんばかりに、歩調を緩め、怯えたような、不安そうな表情を見せながら……。

(………!かかった♪)

相手は三人。あたしを付けていたのが一人じゃなかった事、前のあたしならショックを受けていたけど……今のあたしは、全然。むしろ――。

「……やっと、会えた……」

あたしは、あらかじめ仕掛けておいた罠の位置を辿っていくと、案の定――男の人達がいた。

ただし、全員白い糸に絡まっていたけど。

「ううっ……くうっ!」

男達は、何が起こったのか分かっているのかいないのか、絡み付いた糸を剥がすために、ただひたすらもがいていた。それが逆に、男達の体を締め付けているのにね。

遠くから見れば、巨大な蜘蛛の巣が、狭い通りを塞ぐように張られていて、男達はそこに貼り付けられているのが良く分かる。

あたしは、男達の姿を確認した。

黒いスーツに赤マント、ピコピコハンマーを装備………じゃなかった!

黒いスーツで上下を固めて、黒のサングラスをかけている、比較的体格ががっしりしている、M.I.B.のような男が二人と、もう一人はオレンジのボサボサヘアーにパーカー、よれよれジーンズの不良風の男。パッと見共通点はないけど、あたしの頭は、この三人がグルであると判断する。

「おじさん達、何であたしを付けていたのか、教えてくれないかな?」

静かに、でも冷たさを持たせてあたしは黒服の一人に問いかけた。

サングラスのせいで視線は良く分からないけど、黒服はあたしを見て――ひたすら黙っていた。

「黙秘?あたしはつけられる理由がないんだけど、おじさん達にはあるんでしょう?」

無言。だろうとは思ったけど。

「女の子一人の後をつけるのって、あなた達どんな性癖してるの?もしかしてロリコン?年下好み?」

残念だけど、あたしにロリ、という表現は似合わない。かといって大人、ってわけでもない。微妙な成長具合なのだ。でも――。

「………」

あ、少し眉ひくつかせてる。

「ふふ~ん、黙ってるってことはそうなんだ~」

あたしは意地の悪い笑みを男達に向けながら、脳内で思い付く限りのあらゆる罵声を、セクハラ好きな『進んでいる』クラスメートの真似をして捲し立てた。

「え~やっぱ『ょぅι″ょたんハァハァ』とか『締め付けが良いのよ締め付けが』とか夜な夜なDTなピザオタとPCの無臭画像とか漁りつつ扱いてんの?てかえ~っマジ!DT!?キモーイ!DTが許されるのは小学生までよ~っ?うっわ、ハズカシ~!」

……正直に言おう。あたしは何とか恥ずかしさが外に出ないように必死だった。限りなく人を馬鹿にしたような笑みを浮かべて、相手を嘲笑う、そんな事今まで、全くしたこと無いし、これからもしようとは思わない。

でも男達は別。だって、あたしをさんざん付け狙っといて、いざ捕まったらだんまり?そんなのあたし、許すわけないよ。

「~~!!!!」

さっきの羞恥心をかけた挑発は、不良を激昂させるのに成功したらしい。顔をカシスオレンジの原液のごとく真っ赤に染めた男は、何かが切れる音と同時に、一気にこちらに畳み掛けた!

「ざけんなこの淫売!テメェのようなカマトトぶってる癖に男の前でヒィヒィ腰振ってるような奴こっちから願い下げだ!そもそもテメェは『闇の因子』を持ってっから抹殺リストに入ってんだよ!おとなしく普通に過ごしてりゃ、あと三日後に苦しまずに楽にしてやったぜ?この人類のクズがっ!」

「…………」

男の台詞は、明らかにあたしの理解を超越していた。

あたしを殺すつもりで?その前に『闇の因子』って何?淫売とかクズとかはさっきの発言的に仕方ないから脳内スルーするとして。

「ハッ!テメェのようなノータリンは居るだけで地球のカスなんだよ!死んで消えちまえ!」

スルーするとして、今の全ての男の台詞で、明らかに他の二人の表情が一変した。

「貴様!規定違反だぞ!」

「規定?ハッ!俺達を取っ捕まえている時点で規定外の状況だろーが!」

「なっ!?」

「大体よお!どうせ誰も来やしね~し、声も聞こえやしね~だろ~が!今日び『闇の眷族』だって分かって、結界も張ってんだろ!?ならとっととぶっ殺しゃ良かったんだよ!」

「サイコメトリングされたら面倒な事態になる!」

「知るかクソ共!」

あたしの存在そっちのけで、仲間割れし出した三人……。それをあたしは、呆れたような目線で見つめ続けた。

(流石に殺されるのは勘弁だけど、殺すのも嫌だな……っていうか殺す気なんてそもそもこっちには無いのに、なんであっちは殺す前提の論議なんだろうさ?)

知りたいことは色々あった。でも、女王様が多分教えてくれるだろう。『闇の因子』とか『闇の眷族』とか、女王様なら多分御存知の筈だし。

なら――あたしが今しなきゃならないのは、一つ。

あたしは音を立てないように、黒服の一人の背後に素早く回り込んで――首筋に牙を一気に突き立て、毒液を流し込んだ。

「がっ――」

男の意識が消えたのを糸の撓みで確認すると、もう一人の黒服にも同じように噛みつく。そして一旦巣から飛び降りた。

「なっ!テメェ……」

両手両足をしっかりと縛られた不良男は、明らかに憎しみの籠った目であたしを睨み付ける。どうも、あたしが彼らを殺した、そう思っているみたい。

相手が感情を立てる度、冷えていくあたしの心。

「あたしに関する記憶を、全て消しただけよ。もう付き纏われたくないから」

そして冷える度に浮かび上がる、相手への哀れみにも似た感情。それが捕食者と被捕食者のそれだろう事は、頭の片隅で分かっていた。

「なっ!?」

お決まりの返事しかしない男。さらにもがいていたのか、芋虫のような姿であたしを睨み付ける様子は、どこかコミカルな気もしたけど。

情報を知るには、今あたしが置かれている状況の情報が少なすぎる。聞いて判るものでもないし、第一――。

「………」

あたしは、何かが背中の方で割れたような、パリン、という音を聞いた。多分、男達が張った結界が壊れた音だろう。もう少ししたら、人が来るかもしれない。

「――さよなら」

あたしは、もう二度と会わないことを祈りながら、不良に飛びかかり、首に噛みついた。


男達を糸から取り外し、糸自体も全部もふもふ食べて回収すると、あたしは男達のバッグからあたしに関係するものらしき書類を、全て抜き取って、そのまま足早に逃げ出した。

後に残されているのは、黒服二人と不良一人が、全員うつ伏せに倒れている姿だけだった………。

これで、あたしの一つ目の願いは、満たされた。

三つ目の願いは、この体をもって生まれたときに、既に達成されている。

あとは――。


「……元気が戻ったみたいだな」

「え?あたしはいつも通りだよ?」

黒服達と対峙した二日後、あたしは成語とデートをした。場所はいつもの『アイリスアリス』で。

卒業式まで、あと二週間もないこの日。でも、これからしようと思う事を考えると………ふふっ。

「ん?やけに嬉しそうだな?」

「えっ!?」

や、やだ。顔に現れてた!?

「や、やだなぁ、いつもこの調子じゃん!?あは、あは、あはははは……」

うぅ………我ながら苦しい言い訳だよ……。

「お待たせいたしましたぁ。プティングですぅ」

ウエイトレスさんが良いタイミングでプティングを運んできてくれて、会話が一瞬途切れる。

数刻遅れて、成語のところにもホットケーキが届いた。どうにももどかしい空気のまま、私達はデザートを食べ始める。

……でも、これが終わったら………♪

「ねぇ……来て欲しい場所があるんだけど、いい?」

成語の腕にあたしの腕を絡めながら、あたしは成語に擦り寄りながら訊いた。

「お、おい、いきなりだな………」

当然、成語は戸惑ってるみたいだけど、大丈夫。

「なんとなく、こんな感じでやってみたかったんだよね~。ほら、受験から解放されたから、色々と外してみたいなぁっ……て♪」

密かに、変身をちょっと外す。あたしの中で生成されたフェロモンが、徐々に肌から染み出て発散されていく感覚が、ぴりぴりとして気持ち良い。

あたしのフェロモンを嗅いだ人間は、誰もが夢心地のままあたしの言うことを聞くようになるの。ただし……短時間だけだけどね。

ほら、成語の目も、少しずつ蕩けて……!?

「――!?」

蕩けてない!?どうして!?

成語の目は蕩けるどころか、驚いたように目を丸くしている!?

「……菜々」

絞り出したような声で、成語はあたしに言うと、そのままあたしの両肩を掴んできた。

剰りに真剣な目に、あたしは射竦められて身動きが出来なくなった。

トクンッ

あたしの心臓が、ときめきの鼓動を伝える。けど、頭の中では完全にパニックが起こっていた。

アリスであるあたしのフェロモンは、どんな人間にも必ず効く。実際、あたしはクラスメートに対して実験もした。大したことはしてない。ただ二人きりになったところで、家族内容を訊いただけ。それでもみんな、目をとろんとさせながら話してくれた。どんな子でも――。

成語は両肩を掴んで、私をじっと見つめたまま動かない。私も、成語に見つめられる限りは動けない。このまま何年でも過ぎてしまいそうな膠着状態は――、

「………菜々も、アリスだったのか……?」

――意外な結末を迎えた。

「……え……?」

アリス?どうしてあたしの名前を?

いや、でも、それより……も、って……まさか!?

「え……その……成語も……?」

あたしの質問に、成語はゆっくりと、噛み締めるように頷いた。


あたしがアリスになる前に、一緒にあの店にいた成語。彼もあの時、女王様に会って、アリスになっていたのだ。

アリスになる時の三つの願いも、もう二つ叶えてしまったらしい。その残り一つは――。

『さ、この場所なら安全よ』

女王様が、何もかも分かっていたかのように案内した場所は……女王様の体の中。おへその辺りまで出来た巨大な裂け目の中で、粘液が滴り、肉壁が蠢いている。

普通じゃなくても、視覚的には遠慮したいと思う場所だけど……私達アリスにとって、女王様の中は始まりの場所でもあり、聖地でもあるのだ。

そこに居るだけで心安らぐ桃源郷――。

「「ありがとうございます、女王様……」」

女王様の言葉を受けて、あたし達は喜んで、女王様の体の中へ、足を踏み入れていった……。

ぐにゅ……。

入り口が音を立てて閉じる。同時に、濃縮された女王様のフェロモンが、あたし達の空間に満ちていく……。

「あ……はぁ……」

喫茶店で出たシロップのように甘い桃色の空気が、あたしの体に染み渡っていく。どこかむず痒いような、もどかしいような感覚が、身体中に走っていく――。

「う……うぁ……ぁ……」

それは成語も同じみたい。生まれたままの体を左右にくねらせ、内側から走る衝動に悶えている。

と――?

「あ……ぁふ……ぁ……ぁん」

成語の声が……高くなっていく?深みを持たせながら、どこか伸びのある声に……。

「あぅ……ぅぅん……ぁん」

成語の体もそれに合わせて、徐々に丸みを帯びていく……。角ばった体の筋肉が、次第に柔らかくしなやかな曲線を描くようになっていく……。顔もどこかやや丸顔に――。

「ぁふっ……ぃぁ……ぁはあ」

つきだした尻が、ぴく、ぴくと動きながら大きくなっていく――。

「ぁぃっ……ぃぁっ……あああああああっ!」

突然雄叫びを上げて成語は反り返った。

「ああっ!あっ!あっ!いああ~っ!」

その手は――フラットな胸をひたすら強く握りしめていた。乳首をつまみ上げて捻り、周りの肉を寄せ集めるように揉み上げ、爪を深く食い込ませて――!

成語の胸が、徐々にその形を変えていった。最初は盾のようにひっそりと、そこから少しずつ、魅惑の双球が形作られていく……私より大きく、形も美しいおっぱい。女王様の贈り物。

成語はそれを、ただひたすらに揉みしだいていた。たわわに育った実が抉られてしまうんじゃないかと思えるほどに力任せに握り締められ、白桃はその姿を変幻自在に変化させていく……。彼の乳首はつんと硬くしこり立っていた。彼も興奮しているのだろう。

そしてついに――!

「あああぁぁぁああ~っ!」

びゅるるるるぅ~っ!

大量の白濁した液体が、成語の乳首から吹き上がった!まるで噴水のように吹き出続けるそれは、女王様の肉壁に当たって発散して、甘い白い霧を発生させていった。

「あぁぁ………」

恍惚の表情を浮かべて倒れる成語。その体が急速に変化していく。頭から二本の角が生えて、先っぽだけがふさふさの尻尾が尾てい骨から生えて、さらに手首から腕、足首から脚全体にかけて白地に黒ぶちの毛が生えていく……。

どくんっ!

「!!!!うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

あ、あたしの体も一気に変化していく――!体の中の神経が繋ぎ変えられ、それに合わせてあたしの体が作り直されていく――!

「あぁああああっ!いあっ!あぁあっ!」

か、体が張り裂けそうだよぉっ!あたしの中で、あたしが外に出たがっている!

焼けるような熱を感じながら、両方の胸がむくむくと大きくなっていく……!同じように、お尻も大きくなって毛を生やして、形を変えていく……!

重さに耐えきれなくなってぺたんと後ろに倒れ込みそうなあたしを――!

「あぁあああぁあっ!」

ぶしゅうっ!とお尻から生えた四本の蜘蛛脚が支えてくれた。でも、倒れないで済む代わりに――!

「い、あぁあああぁぁああっ!」

あ、あたしの中から溢れ出していく!で、でるっ!で、ちゃ――!

「ああああああああああっ!」

ぶしゅうぅぅぅぅぅぅぅっ!
しゅるるるるぅ~っ!

巨大化したあたしの胸から、ねばねばした乳液が噴出して、お尻の穴の先に出来た穴から、大量の糸を吹き出した!さらにあたしの秘所からは、桃色の粘性の高い愛液が大量に溢れ出した……!

「あはぁぁ………」

脱力したあたしの頭からは、触角のようなものが二本生え、額には六個の瞳が生成された。

これが、女王様がくださった体だ。

あたしは蜘蛛娘。成語を逃がしたくないから、繋いでおきたいから。それに、付きまとった人を捕らえたかったから。捕らえて思い知らせたっから。

成語は、何を願って牛人間に……?

あ………。

でも………。

「……ななぁ……」

完全に姿を変えた成語が、女の子の声で私を呼びながら、瞳をうるうるさせて見つめている。

「……せいごぉ……」

あたしの視界に映る成語も、水の下から眺めたように歪んで見えた。

「ななぁ……」

「せいごぉ……」

あたし達はお互いに名前を呼び合いながら、互いの距離を近づけていく。

ピチャピチャと音がするのは、女王様の体液が滴る音と、あたしの愛液が女王様の肉の地面に落ちる音。そして……成語の愛液が、床に落ちる音。

変身した成語の股間には、丸こそ無かったけど、そそり立つ巨大な肉棒があった。その根本の下にすっと入った一本の割れ目、それが今は春の訪れを告げる花のように開き、乳のような蜜をたらたらと流している。時折ビクビクと体を震わせているのは、やっぱり女性の快感に馴れていないから……なのかな。

そしてあたし達は、互いの胸が触れ合う位置に近づいた後――、

『――愛してる』

「あむっ、んぐ、んむ、ぢゅる」

「ちゅ、じゅる、ぬちゅ、ぱぁ」

愛の告白を終えた次の瞬間には、あたし達は抱き合って、キスを交わしていた。舌先から根本まで全てを使って、執拗に口の中を舐め回していく。その度にあたしは、成語の分泌する甘い唾液が自分の唾液とブレンドされて、あたしの口の中に広がってい区のを感じていた。

「んふっ、んむっ、むんっ………ぱぁ」

歯茎から歯の裏、前歯から親知らず、皮膚粘膜まで余すところなく舐め回したあたし達は、互いに抱き合ったまま口を離した。

つ……と、唾液の橋が二人の間に架かり、二人の胸の間にぴちゃん、と落ちた。

何となく、幸せな感じがした。

二人の蜜に幽かに残る温もり、それが胸から徐々に広がっていくような気がして――。

どっくぅぅぅん………

どっくぅぅぅん………

あたし達を落ち着けるような、重くて深い音。女王様のいのちの音だ。あたし達は、女王様のいのちの中から生まれて、今女王様のいのちに守られているんだ……。

「……ぁん……」

あたしの下のお口が、もどかしさを訴えるようにきゅんっ、と縮まった。女王様の濃密なフェロモンによって、あたしは完全に――発情していたのだ。今すぐにでも、成語のそそり立つ逸物を、あたしの中に迎え入れたい――。

あたしが目線を上げると、成語も同じような目であたしを見つめていた。

ぴくっ、ぴくくっ

成人男性より遥かに太くて長い彼――ううん、彼女の逸物は、あたしの半開きの筋をなぞるように動いて、あたしの思いを肯定するように、優しく震えていた。

しばらく互いに見つめあった後――。

ずぐぅぅんっ!

「――あぁあはぁぁあっ!」

成語はあたしをたぎる肉棒で突き刺し、そのまま肉のカーペットに倒れ込んだ。

ぬむゅ、ぶぉぅんっ

女王様の体はあたし達の体を優しく受け止め、同時にフェロモンを放出する。もう、視界は殆ど桃色の靄に覆われて、成語の顔すら見えなかった。

「……ぁっ……ぁっ……」

声すら……どこかエコーがかかったように聞こえた。少しずつ、オブラートに包み込まれていくような……。

それでいて、意識はどんどん研ぎ澄まされていく。

どくんっ、どくんっ

肌を通じて、成語の心臓の音が伝わってくる。成語の感情が、あたしの中に流れ込んでくる。そうすると、ますます成語の事が愛しくなってくる。成語の事……もっと気持ち良くなって欲しいと思えてくる……。

処女を失った筈なのに、あたしの膣からは血の一滴も流れなかった。そのかわり……

「あはぁぁぁぁぁぁぁっ!」

精神がすべて吹き飛んでしまいそうな強烈な快感と、待ち望んだものが来た事による――充足感。

(あぁあっ!いぃっ!いぃのぉっ!)

成語の逸物を受け入れたあたしの膣は、それでも足りないと言わんばかりにあたしの体に命令を下した。それは、ひたすら自分の肉襞を成語の逸物に擦り付けることだった。

騎乗位のまま、あたしは成語の柔らかな胸に手をついて、ゆっくりと膝を曲げていった。

pズズズズズ……

「あはぁぁぁぁ………」

成語の逸物があたしの奥へとその身を潜らせていく度に、あたしの体は喜びの声をあげていった。

どくんっ、どくんっ

成語も、あたしの動きに合わせるように動きながら、感じているみたい。あたしの膣が奥へと招くと、成語は腰を大きく押し付けてくる。

ゆっくり腰を引くと、成語もゆっくりと腰を引いていく。

抜ける寸前まで腰を引いて、今度は少し早く腰を落とす。

ずぬるぅっ……

「あ……あひ……」

あたしの膣は、まるでアイスキャンデーを舐めるように成語の逸物にしゃぶりついて、くわえ込んでいた。そのため、

「あふぁっ!」

成語が、一瞬引いて、また大きく突き出す、そのほんの一瞬の動作さえ、敏感になったあたしの膣は刺激として捉えてしまうのだ。

ぬる……

「……?」

手元が、なぜか突然ぬるぬるしだした。唐突に胸と手の摩擦が消えて――!

ずるっ、むにゅ!

「!!!!!!」

巨大な乳房の一つに、顔面から突っ込んでしまった!そのまま成語はあたしの顔を抱え込んでくる!成語の乳首があたしのだらしなく開いた口にそのまま入り込んで――!

びゅ、びゅるるぅ~~っ!

「!!んむんんんっ!!」

まるで『アイリスアリス』のシロップのような、優しい甘さの母乳が、あたしの喉に大量に雪崩れ込んできた!

もう片方の乳から出た母乳はあたしの髪も濡らし、仄かに暖かくあたしの体を包み込んでいく。

「んむぅん………」

少しずつ、少しずつ、体の内側も外側も成語の母乳で満たされていくぅ………。やがて、それがあたしの膣に流れ込んできた――その時だった。

どくんっ!

――え?

どくんっ!どくんっ!

――え…あ…ああ……ああっ!

どぐぅぅんっ!

――あああああああっ!

「んむぅぅぅぅぅぅっ!」

あついっ!あついっ!体が、体が熱いのぉっ!じんじんするのぉっ!

あたしの中で灯った火は、体の中に吸収されたミルクを起爆剤にして一気に燃え広がった!体全体を覆っているミルクも、まるでホッカイロを直接肌に張り付けたような熱をあたしに伝えてくる!

焼けるような熱さ!でもどこかもどかしい……切ない……疼く……欲しい!

「んむぅぅぅぅぅっ!」

顔を乳に押し付けられたまま、あたしは一心不乱に腰を上下させた。腰を落とす度にぴゅっ、ぴゅっと母乳があたしの中に噴射され、それがさらに体を熱くして――!

「んむぉぉぉぉぁぉぁんっ!」

あたしの膣は、まるで咀嚼するように成語のぺニスを圧迫していた。今にももにゅぐにゅと効果音が聞こえてきそうな気配だ。

「……ん……ぉぅ……」

幽かに成語の声が聞こえたのと同時に、ペニスがいよいよぴく、ぴぴくっ、と震え始めた。あたしの愛液をぬちゃぬちゃと掻き回しながら、その瞬間を今か今かと待ちわびるように蠢いている!

ごりっ

「んはぁんっ!」

成語が、あたしの体の最も奥、生命全ての聖地である子宮を一気に貫いた!同時に、あたしの内壁も成語の逸物を一気にきつく絞るようにくわえ込む!

「あぁっ!せいごっ!せいごぉっ!」

無意識のうちに、あたしは成語の名前を呼んでいた。呼ぶ度に、あたしの中で何かが生まれていく。それは熱とか性欲とか衝動じゃなくて、もっと根元的な――!

「……ぁっ!ななぁっ!」

ぼんやりとした成語の声だけど、それだけははっきりと聞こえた。

せいごが、あたしを、よんでいる――!

そう意識した瞬間、あたしの――あたし達の肉体は――!

『あああああああああああああああっ!』

びゅるるるるるるるぅ~っびゅくっびゅくびゅううぅ~っ!

しゃああああぁ……

ぴゅるるるるるぅ~……

しゅるるるるるぅ~……

精液、愛液、母乳、蜘蛛糸その他様々な体液を全身から放出しながら、絶頂を迎えた。

――おめでとう――

――これであなた達は――

――……ふふっ――

女王様の体の中で、あたし達はずっと交わっていた。それこそ、時を忘れてしまうほどに。

目が覚めたとき、あたしと成語は交わったまま、白くてふわふわしたものに囲まれていた。

幽かに聞こえる、どくぅぅん、どくぅぅん、という女王様の鼓動。

頭の中に耳を澄ますと、以前よりはっきりと聞こえる、女王様の声。それが、あたしが……ううん、あたし達が本当に『アリス』になったと言う証拠。

――………――

あ………。

呼んでる………。

女王様が……。

出なくちゃ………。

………ふふっ。

待っててね、女王様………。


その後、あたし達は中学を卒業して、一緒の高校に入った。あまりにラブラブしてるから、学校公認のバカップル認定されてるみたい。

でも気にしないの。あたしが成語を心の底から愛しているから。

それに――。


「あんっ!あはあんっ!あぁっ!」

あたしが腹部をくねらせ、産卵管で彼女の腹を突き上げる度に、彼女は頬を湯気が出るほどに上気させ、夏場の犬のようにだらしなく口を開いていた。

その口にすかさず、あたしの乳を突っ込んで、同時に揉み上げる。

びしゅうっ!

「!?んむむんん~っ!」

彼女の中に、あたしの蜘蛛糸の原液でもある母乳が大量に発射された。こくこくと喉が動いて、それを飲み込んでいるのが分かる。

「ほら、もっと飲んでいいのよ……」

あたしが胸をさらに押し付けると、彼女はまるで赤ん坊のようにあたしの乳に無心で吸い付き始めた。時おり体をビクビクさせてるのは、あたしがお腹を突き上げたから。それでも――

「あんっ、あっ、い、いいっ、いあ、あんっ」

とくとくと流れ出る母乳を一滴たりとも逃すまいとする彼女。乳首を噛んだり乳輪を舐めたり乳房に吸い付いたりするその一連の行動は、あたしを昂らせるだけでなく、あたしの中にある、もう一つの本能を目覚めさせる役割をも担っていた。

とこん……とこん……

あたしの体の奥底で、優しい鼓動が響き始めた。それを合図にして、あたしは彼女の耳元で、繊維のような声で囁いた。

「ねぇ……『娘』にならない?ううん、なって欲しいの」

彼女は答えない。でも、彼女の瞳はもうあたし以外のものは見えないし、耳はあたしの言葉を捕らえて放すことがない。

彼女が喉を動かして母乳を飲む度に、彼女の瞳から光が消えていき、彼女の体から、力が消えていく。まるであたしに全てを委ねるかのように。

全ては、あたしの母乳に『絡めとる』力があるからこそ起こることだ。

今頃、彼女の頭の中は、あたしで全て満たされている。そして――

こくん。

小さな子供がするような、小さな頷きが、彼女の魂を落とした決定的な証拠となった。

とこん……とこん……

あたしのお腹の中から、丸くて柔らかい固体が脈動しながら、出口を求めて動き回っている。

「ああ……あはぁ……っ」

気がつけばあたしの腰が、少しずつ動きを速めていた。今はただ、彼女に、あたしの――。

どくんっ!

「あぁあっ!」

彼女の子宮奥深くまで刺さった産卵管、それがぷるぷると震え始めた。クリトリスに代表される女性の性感帯全てを一気に刺激するバイブレーションに、彼女は乳から口を離して反り返った。反り返り過ぎないように、あたしは糸を背中に回し、ハンモックのように優しく受け止めながら胸の谷間へと呼び寄せた。

「んぶっ!?」

口を塞がれてじたばたともがく彼女に向けて、あたしは濃縮されたフェロモンを谷間から発すると、

「ふっ!むむぅ~~っ!」

ぴゅう~っ!

脳が耐えきれなくなったのか、彼女は全身を震わせながらアクメを迎えた。彼女の吐息が、あたしの乳に触れる度にどこかもどかしく切ないような、そんな感覚に陥って………。

とくんっ!

「「ひぁっ!」」

あたしの産卵管が、いきなり大きく震えた!出口を見つけた唯一の卵が、あたしから出るためにその入り口を通り始めたのだ!

ごぷん、ごぼんっ!

「「ああっ!いああっ!」」

あたしの管の中を、卵が通ってる。卵がある場所は、管がぽっこり膨らんでいるから分かるんだ。

卵が少し進む度、産卵管がぷるぷると震えて神経を刺激。結果としてあたし達二人とも気持ち良くなっていって――!

「あっ!あっ!あぁっ!」

「んむっ!おむっ!んむぅぅぅぅぅっ!」

ぽこっ!

「んむぅぅぅぅっ!」

ついに彼女の膣に辿り着いた。本来、不純物(悲しいかな、世間の人は理解できないみたい)をシャットアウトする筈のそれは、先程までのあたしとの交わりの中でよく濡れ、外からのものを受け入れる姿勢が整っている。

そんな神秘の門を今――

「あっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

……………ごぷっ……ん。

あたしの卵が潜り抜け、そして子宮の中にその身を落とした。

「んむぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

ああぁああぁぁぁぁぁぁ………。

彼女は、膣と産卵管の境目から愛液を大量に吹き出すと――私に体を預けるように気を失った。

産み付けた卵が、彼女と一体化したのを管の感触で確認すると、私は産卵管を彼女から抜いていった。

ぶしゅ、と音がして、吸収しきれなかった分のあたしの体液と、彼女の愛液が拡張された秘唇から吐き出された。

「………」

あたしにもたれ掛かっている彼女の胸は、ただ規則正しく、ゆっくりと上下している。体に異常は――起こっていない。

「ふふふっ……」

あたしは、蜘蛛の腹部の先端を彼女にゆっくりと向け、そして――。

しゅるるるるるぅ~……

彼女に巻き付けるように、ゆっくりと糸を発射した。絹糸のように柔らかいあたしの糸は、気持ちを安らかにさせる甘い香りを纏って彼女を包み込んでいく……。

「「あはぁぁぁぁ………」」

あたしと彼女の声が重なった。糸を発射する気持ちよさと、その糸に包まれる気持ちよさ。

次第に彼女の声がオブラートに包まれていく。糸が彼女の体を、徐々に隠していく………。

あたしが糸を出すのを止めたとき、目の前には一つの巨大な繭が転がっていた。

「ふふふ………」

あたしはそれを愛しげに抱き締めると、部屋にかけた蜘蛛の巣を伝って天井近くまで登っていき……。

「ふふふっ……これで、みんな大丈夫……」

アリスであるあたしの目の前で、アリスの子供となる無数の繭が、天井に張った蜘蛛の巣にびっしりと接着されていた。

幾つかの繭はとくん、とくんと定期的に脈動し、時おり気持ち良さそうな声が聞こえてくる。

あたし達が女王様に言われたことは、次のようなことだ。

『私達『アリス』には、『闇の因子』を持つ子を引き付ける力があるの。でも『聖杯教団』はそんな子の存在を全て消そうとしているのよ。だから貴女には、そんな子達を『アリスの子供』にして欲しいの』

『アリスの子供』にすれば、この子が殺されることもなくなり、女王様も幸せになれる。女王様の幸せは、そのままあたしの幸せでもあるから、みんな幸せになれるんだ。

『アリスの子供』を増やせば、もっと幸せになれる。みんなもっと幸せになれる。

だからあたしは、街角で、学校で、何気なく巣を張って、あたしの気配に惹かれて引っ掛かった子を『アリスの子供』にしているのだ。

「ふふふ……さぁ、みんなぁ、出てきてぇ……」

あたしの声に反応する繭を眺めながら、あたしはそっと、下腹部を撫で続けていた………。

fin.


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