アリスと傷持ちの子供〜after a few days

久しぶりに、タンスの中から半袖の服を取り出してみた。『アイリスアリス』の特性ホットケーキをわりと毎日のように食べてはいたけど、不思議と体型が変わることは無かった。きっと、女王様の蜜の甘味は、体にあまり影響を与えないんだなぁ、などと考えてしまう。

「……ふふ」

久しぶりに袖を通す、その行為を考えるだけで、わくわくしてしまう。だって、今までだったら、お母さんやお父さんが壊れないように、傷を見せない長袖ばかり選んでいたから……。

クリアブルーのワンピースに、ややぶかぶかの麦わら帽子。夏が近づいていくこの時期に、わりと合う組み合わせだ。

「行ってきます」

笑顔を見せてくれるようになった二人に出発の合図を告げると、私は履き慣れないミュールを履いて、外に飛び出した。

「おねえちゃんっ!」

とすっ

家の門の前まで来たところで、後ろから美井がぶつかってきた。女王様の話では、美井もアリスになったらしい。どんな姿かは知らないけど――。

「おねえちゃんっ!あのね、あのね……」

子犬のように元気良かった態度はどこへやら、俯いてもじもじし出しちゃった。何を言いたいかは、実はもう知っているんだけどね。

「はいはい。今は『アイリスアリス』に行きましょ。集合時間ギリギリよ。――特性ソフト、おごって欲しいでしょ?」

おうぼうだー!と美井は私に叫びつつも、ちゃっかり袖とか服は握って、私より先に行こうとしている。可愛い盛り、と人は言うのかもしれないけど、私にとってはかけがえの無いたった一人の妹だ。例え生意気であっても、妹を可愛いと思えるだろう。

「じゃ、早く行くわよ〜」

とてとてと、必死で私に追い付こうとする美井から、離れない程度の速度で道路を歩きながら、私は携帯電話を取り出した。アイリスアリスで知り合った菜々さん達と連絡を取るためだ。

時間を確認しようと視点を動かすと、今日の日付が目に入った。

「……そっか……」

もう、あれから数日経ったんだ……。

私は、どこか感慨深げにそれを眺めていた……。


私が女王様からもらった力、それは『浸透』。体や気配を通じて、相手に何かしらの影響を与えるもの。私はそれを使って、お母さん達に優しい気持ちを伝えようとしたんだ。

『だいじょうぶだよ……私はみんなの事が好きだよ……おびえないで……こわがらないで……』

とくん……とくん……

二人の心拍数が、段々私とおなじになっていく。これなら……!?

『!?』

お母さんとお父さん、二人の中から身を震わすような冷たい気配が立ち上り、二人の心拍数を一気に引き上げた!何だろう――体の中にドライアイスを放り込まれたような、皮膚が切り裂かれるような冷たさ――憎悪、嫌悪、破壊衝動、苛立ち……。

この気配を、私は以前感じたことがあった。封じ込めた記憶の中にいた、あの黒い服の人達が発していたものと、剰りに似ているのだ。

『ううっ……!』

剰りの冷たさに、私の体が凍ってしまいそう……私の力が、微妙に押されてきている……!?

「ううっ……ぅぁぁっ……」

「あぐぁっ……がぁっ……」

私の体の中で、お母さん達が苦しんでいる!息が苦しいとかそんな苦しみじゃない!まるで体の中で何かが暴れているような――!

『!?お母さんっ!お父さんっ!』

今、分かった。この冷たい感情が、お母さん達を縛り付けて、支配していたって事に。それが私の力で消えそうになったから、逆に私を消してしまおうとして暴れている事に。

『く……あかっ……ん……ぁあっ!』

酷いよ……お母さんとお父さんを苦しめて……美井を苦しめて――!でも……力を過剰に使うと、お母さんとお父さんが違う人になっちゃう……どうしたら……。

……ず……

『……?』

……え?

「……ず……な……」

『……!?』

い、今、二人の口が……!

「……な……ず……な……」

『!!!!!!!!』

あ、あぁ……お母さんが、お父さんが、私の名前を……名前を呼んでる!あんた、とかそんな呼び方じゃなくて名前で!

「ぐぅっ!」

まただ!またお母さん達を――!

気付けば、渾身の力を込めて、叫んでいた。

『お母さん!お父さん!負けないで!』

その瞬間――!

【―――!】

断末魔のような、耳を軋ませる気配を放出して、負の感情の集合体は消滅した。同時に、糸が切れたように、お母さん達が私に向かって倒れ込む。

『……はぁっ……ぁっ……っ……っ……』

緊張が解けた私を、どっと疲れが襲いかかった。私は素直にそれを受け入れて、腰から下の力を抜いた。

セーラー服の擬態が解けて、脚も一つに繋がって、地面に広がっていく……。

『………ぁっ………ぁっ………ぁっ………』

腰から下のつもりが、全身の力を抜いちゃったみたい。腰が、胸が、腕が……段々蕩けていく……。

『………ぁっ………』

何とか水溜まりになっちゃうのは避けられたけど、今の私の姿は……どこかのB級モンスター映画の怪物役みたいだ、っていう表現がピッタリだと思う。

お母さん達を完全に包んじゃっているし……。

「………Zzz...」

……でも、今のお母さん達、本当に安らいでるなぁ……。

『………』

これで……壊れずに済んだんだよね?

お母さんも、

お父さんも、

美井も、

我が家も、

みんな――


「やぁ。元気……に、なったみたいだな」

「お早うございます、成語さん」

「おはようございますっ!」

元気一杯の妹の挨拶に、成語さんはちょっと苦笑いを浮かべていた。あの日以来、美井は非常に元気が良くなったと思う。元々活発だったか……と訊かれたら何とも言えないけど、私が虐待されていた時に比べれば、格段に元気は良くなった。寧ろ、テンションが空回りしている気がする。姉として、そこは心配だ。

「済みません、ちょっと支度に手間取っちゃいまして」

現在時刻は10時を少し回ったところ。集合時刻が10時だって事を考えると、若干遅刻ぎみだ。

私のそんな言葉に、成語さんは心配ないよ、と言って軽く笑うと、こう告げた。

「菜々からさっきメールがあってな、アイツは『ごめんあと10分!いや5分待って!』だそうだ。全く、何を手間取っているのやら……」

私はただ、複雑な笑顔を浮かべるしかなかった。

多分、成語さんも理由は分かっているのだろう。この中で分からないのは、あの時気絶していた妹の美井だけだ。

私としても心境は複雑だ。私の親を殺そうとした彼女と、一緒にお茶することになるなんて。未遂だったから、まだ大丈夫だけど、もしあの場で、彼女の腕が両親を貫いていたら――あの場所で、全てが壊れてしまっていただろう。

「………」

でも、今一番辛いのは、きっと菜々さんだろう。もしかしたら、一番大切なものを、一時の激情で永遠に奪ってしまったかもしれない。その奪いそうになった相手に対して、どんな顔をして会ったらいいか分からない。その気持ちが十分理解できた。

「………よし」

だから私は、菜々さんを恨むことなく、嫌うことなく、受け入れようと思うんだ。それが私に出来ることだから。それが私が出来る最善のことだから。

「お待たせっ!ごめん成語髪のセットに手間取ったの!あと服と靴とアクセと――」

「全部かよ!オイ!」

メール報告からきっかり五分後、ようやく菜々さんがやってきた。気温だけなら初夏もいいところなこの時期の全力疾走で、額にはほんのりうっすらと汗をかいている。服装も、成語さんのためにお洒落してきたのだろうけど……ややくしゃくしゃになっていた。

それでも、成語さんは気にしないんだろうなぁ……。

「ねぇっ!おねえちゃんっ!早く『アリス』に入ろっ!」

妹の元気な、どこか痺れを切らしたような一言に、私達は苦笑いしながら頷くと、『アイリスアリス』のドアを開いた。

「あぁほら……ここはこうなるの……」

「そうなんですか……あ、出来ました」

「どれどれ……?……ん、合ってる」

「はむはむ♪」

学生+喫茶店。これは大概勉強会になるみたい。まして、私はそもそも中学校三年生だ。来る高校受験、少しでも勉強しないと……と思っていたところに、成語さんが提案してきたのだ。

『アイリスアリス』で、勉強会をしようと。

「勉強会、って名目で、親睦会を開けたら、って思ったからな。あとなずなちゃん、家があの状況じゃ、多分滅多に勉強もできていなかったと思うんだけど、どうかな?」

成語さんの予測は当たっている。虐待の後は、糸が切れたように布団に倒れ込んで、また朝が来る。そんな生活が続いていたから、勉強を進ませる時間は無かった。それが原因で成績も下がり気味、それが虐待のきっかけになったりもしたっけ……。

「あむあむ♪」

勉強に参加できる筈の無い美井は、『アイリスアリス特性ソフト』を美味しそうに頬張っている。都会ではわりと珍しい牛乳ソフトで、上に綿菓子みたいな飴細工がトッピングされている。あの日の後この店に美井と行ったとき、美井が一目見て気に入ったものだった。

それにしても本当に美味しそうに食べるなぁ……。

「じゃあそろそろ第二問に行く?」

「あ、はいっ」

菜々さんの一声で我に還った私は、再びシャープペンシルを手に取った……。

二人の教え方はわりと上手で、私が解らないところも、視点を変えたり公式を教えたりと塾の先生顔負けの講義をして丁寧に教えてくれた。

気付けば、私が持ち寄った課題は、たった二三時間で全て終わってしまっていた。

「ふ〜……」

「ん〜っ!」

達成感に充実感に心地よい疲労、その三つに身を任せて、私と菜々さんは軽く伸びをした。成語さんはというと……。

「これ、な〜んだ?」

「ん……飛行機か?」

「ぶー!正解は――」

とあんな感じで、美井とお絵描きクイズをしている。美井が一つの絵を描き終わるまで私を教え、描き終わったら美井の方に行くと言う、非常に器用な芸当をやってのけていた。

何と言うか……純粋にすごい。今時の高校生って、あんな風に器用なんだろうか……。

「何て言うかさ〜」

「……はい?」

同じように成語さんを眺めていた菜々さんが、突然私に話しかけてきた。驚きながらも、何とか平然と返す……びっくりした。

「成語と美井ちゃんってさ〜、兄弟って言うより、母親と娘って感じだよね〜」

え、ええとそれはどういう事だろう……と改めて二人を観察してみると、

「……確かにそうですね……」

納得せざるを得なかった。妹が成語さんを見る目は、年上に信愛を抱くような目、明らかに母親を見ているのと同じ輝きを放っていたのだ。

何があったのか、問いたくもなるけど、美井は多分覚えていなさそう。直感だけど、そんな気がした。

「………」

そして沈黙……やっぱり、話が続かない……そしてどこか空気が重たい……。

話しを始めるきっかけを、二人とも探しているかのよう。少なくとも私はそうだ。何を話すべきか、何を皮切りに話すべきか。意識すればするほどに私の舌はその動きを鈍らせていく。喉が石化していく。体が固くなっていく……。

「………あのさ」

話の始まりは、菜々さんから。

「……はい?」

硬直が解けて、私は菜々さんに返す。

菜々さんは、重々しい語り口調のまま、私に語りかけ始めた。

「……なずなちゃんは、私のこと、どう考えてる?」

「……どう……ですか?」

「うん。怒っていたり、憎んだりとか、嫌ったりとか」

私が選んだ行動は、表情を変えないままでの――沈黙。

そんな私を眺めながら、菜々さんは話を続ける。

「……あの日、私は貴女の親を殺めようとした。貴女があの場で止めに入らなかったら、私のこの手は、血に染まっていたわ」

そっと、甲殻化された菜々さんの手。あの日に目に入った、親に目掛けられた凶器――。

「傷だらけの貴女に対して、手を挙げた彼女らを目にしたとき、私は許せなかった。初めて人間と言うものを憎んだ。生かしてはおけないとすら思ってしまった。
けど――」

そこで菜々さんは一度目を伏せてしまう。まるで、何かをこらえているかのように。

しばらくして菜々さんは、そのまま大きく――何かを振り払うように首を横に振ると、顔をあげて、ゆっくりと口を開いた。

「――我に還って気付いたんだ。それが、自分の身勝手な感情でしかないんだ、って。貴女の事を考えてやっているつもりが、実際は自分の感情を抑えきれなかっただけ……。自分の想像の産物を、彼女らに重ねていただけ。
だから――」

菜々さんは、私の瞳を見つめながら、言った。

「――本当だったら私は、貴女と話す資格なんてないのかもしれない。それだけの事をしてしまったから……」

「……大丈夫ですよ」

「……え?」

菜々さんの話を聞いて、私は寧ろ安心していた。ううん、菜々さんが、自分がやった事と向き合って、私に話してくれていること、その行為だけで私は安心していたんだ。

「……そんなに自分を責めなくても大丈夫ですよ」

自然と、顔に微笑みが浮かぶ。そんな私を、菜々さんは驚いたような顔で見つめていた。

「ど……どうしてそんな事が言えるの?親を殺そうとしたんだよ?カッとなって殺そうとしたんだよ!?」

多分菜々さんの心の片隅に、私に嫌われることが自分への罰なんだ、って考えている部分があると思う。その心も受け入れて――でも嫌いにはならない。

「……菜々さん。菜々さんの感情は、私にも分かるんです。同じことが目の前で起こっていたとしたら、私もきっと同じ感情を抱いていたと思いますよ。菜々さんの場合、たまたまそれを実行出来る力があっただけ……」

「で……でもっ!」

それでも何か言おうとする菜々さんの口の前に、私は人差し指を一本立てて、置いた。

「行いを拒絶するのは簡単なんですよ。一切を拒絶すれば、きっと表面上は気を楽に出来るでしょうし、内面も始めのうちはそこまで傷はつきませんから。でも菜々さんはそれをせずに、自分を見つめ直して、行為から自省しています。それだけで私、菜々さんの事を立派だと思いますよ」

「えっ?そ、そんな……」

「それに、あそこで菜々さん達が来てくれなかったら、多分壊れてしまったと思うんです。私も、美井も、お母さんもお父さんも、絹幸家というもの自体が」

私はゆっくりと目を閉じて、そして自分の言葉で、自分の思いを告げた。

「両親に手をかけようとした、その事実は決して消えないでしょう。菜々さんの私に対する思いも、十分理解できます。私に嫌われても仕方ない、そう思っているでしょうことも。
――でも、だからこそ、私は受け入れたいんです。菜々さんの……存在を」

「………」

呆然としている菜々さんに向けて、私は右手を差し出した。

「手を……握ってもらえませんか?」

友情の、証として。そう伸ばした手は、まだ空気しか掴めていない。

菜々さんは、躊躇いがちに私を眺めながら、手を出そうかどうか迷っているみたいだった。

「………なずなちゃんは、強いんだね」

ふ……と、菜々さんの口から漏れた一言。それに私は、微笑みながら答えることが出来た。

「強くなんかないですよ。ただ――強くなりたい、強くありたいとは思っています」

それが私の願い。

受け入れれば楽になれる、そう詠う詩人がこの世界にはいるけど、違うんだ。本当は、受け入れるには強くなくちゃいけないんだ。

空っぽの中に受け入れるなら、意思なんて必要ない。私は、自分の意思で物事を理解して、感情の選別を越えて――受け入れていきたい。

そしてそれが出来るだけ――強くなりたい。強くありたい。

自分の弱さを受け入れて。

「………」

菜々さんは少し困ったような、迷ったような表情を浮かべると――

ぐっ

――手を伸ばして、私の手を軽く握った。

「……私の存在を、許してくれて、ありがとう……」

私の瞳に映る菜々さんに、先程までの重々しさは無かった。


「女王様のいる場所への行き方は……知ってる?」

「……いいえ」

あの日から、我が家では色々なことがあった。お母さんもお父さんも泣いて私と美井にずっと謝り続けていたし、失なわれた数ヵ月分の愛情を取り戻すかのように美術館とか博物館とか(何でも、虐待を受けた子供に対する療法を本屋で学んだらしい)色々な場所に連れていってくれていたので、一人で『アイリスアリス』にすら行く暇がなくなっていたのだ。

女王様とも、あの時以来会っていないし……あの時ですら夢現だったし……。

「じゃあ、いい機会だし教えてあげるね。知らないと大変だし」

そんなわけで、私と菜々さんは勉強会の後、店の中に荷物を預けて『アイリスアリス』の店員用入り口にやってきたのだった。あとの二人は、「もうしばらく遊んでいる」みたい。

表は景観を崩さない程度に華やかだけど、裏はそこまで着飾る必要がないからか、わりと質素だ。

「別に表の入り口からでも行けるけど、今は昼だしね。表通りは人通りが多いから」

菜々さんの何の気無しの発言に、私は首を傾げることしか出来なかった。表の入り口も?

「……と言うことは、店の中にある、と言うことですか?」

だったら店の外に出る意味は無いのではないのか?

「まぁ、見てれば分かるって」

私の問いには答えずに、菜々さんはドアの前に立って――木目に手を這わせ始めた。

トクン……

「――?」

今、私の体の中で、何かが声を上げたような……。

『――――』

……え?なに?このかんじは……どこかで……。

声にならないような、小さく、か細い声が響く――。

『――ス……アリ……――』

!この声は――!

目の前の菜々さんは、慣れた様子でひたすら木目をなぞり続けている。まるで……秘密の場所の入り口を撫でるかのような指使いで……。

その間も女王様の声は大きくなっていって、まるで耳元で話しかけられているような気さえした頃――!

『――アリス、アリス、お茶会の準備はできました?』

「――?」

お茶会?何を女王様は言っているんだろう?店のこと?店でこれから何か行われるとか?アリスのティーパーティー……まるで浦安市のアトラクションの名前みたいだけど……。

「………」

ドアの前に立っている菜々さんは、何もする気配はない。ドアをなぞるのを止めたくらい……?

でも、何だろう。それだけの筈なのに、どこか違うような、例えるなら鉄製と鉛製の違いくらいに、外面からじゃ分からない、けど何処か決定的に異なっているような、そんな気配がした。

纏っている気配の違和感――それは、菜々さんの言葉で証明された。

〔――何でもない日にやりましょう〕

「――!」

明らかに日本語じゃない、それどころか外国の言語ですらない――人間が発音できない言語で、菜々さんは女王様に返答していた。そして――その言葉の意味を分かってしまっている自分がいた。

何でもない日――それは帽子屋と三月ウサギのお茶会で、二人が唄っていた言葉。その場に同席したのがアリス。成る程、お伽噺にかけた合言葉――!

「あぁはぁんっ!」

そこまで考えた私は、次の瞬間、菜々さんの声で我に返ることになった。慌てたように視点を前に移すと、そこには両腕をドアに『埋め込ませ』、恍惚の表情を浮かべている菜々さんの姿があった。

「あぁ……あふ……ふぅ……あは……」

先程まで菜々さんがなぞっていた木目は、今ではまるで本物のお〇んこのようにぱくぱくと口を開きながら、彼女の腕をずぬりずぬりと飲み込んでいく。時折ぬらぁ……とした液体を彼女の腕に垂らして、お洒落をしてきたであろう服装を湿らせ濡らしていく……。

「あ……あああ……ああんっ!」

菜々さんの体が、突然ビクビクと震えた!同時にぷしゅっ、と服越しに曇ったような音が響く。

何をされているんだろう……あの穴は何なんだろう……?

ほわぁ……

そう考え始めたとき、私達の回りに甘い香りが立ち込め始めた。甘くて、柔らかくて、そのまま倒れても優しく受け止めてくれそうなこの香りは――。

「じょ……お……さま……」

発生源はドアの割れ目。つまりこのドアは……女王様の体……ッ!?

「………」

それは、ある意味衝撃的な光景だった。菜々さんが、ドアに頭から突っ込んでいる姿は。時々、ドアの割れ目の開閉に合わせて、「あはぁんっ!」「あぁんっ!」といった声が聞こえてくるから、苦しくはないみたい……。

ぐむぐむと、服ごと菜々さんを飲み込んでいくドア。その動きに合わせるかのように、菜々さんの足も、地面を蹴って、ドアの方へと体を近づけていった。

つ……と、彼女の脚を愛液が伝っていく……。仄かに桃色のそれは、地面に落ちるとすぐに気化し、心を絡めとるような、幽かに頭の痺れる甘い香りを発し始めた。

ぐりゅ、ずりゅ、ぬりゅ

その間も彼女の体はドアの中へと呑み込まれていって――

――にゅぽん

靴ごと、彼女の足はドアの中に消えていった……。

「――」

何だったんだろう、今の光景は。目の前で、ドアがにゅぐにゅぐと菜々さんを中に呑み込んでいって――

とくん……とくん……

――菜々さん、しあわせそうだった……

「……じょお……さまぁ……」

ドアの木目に幽かに残った女王様の蜜は、やや斜めになった太陽に照らされ、幽かにキラキラと光輝いている。私はそれにフラフラと近付いて、恐る恐る舌を伸ばした。

ぺ……ろん

「……あはぁ……」

舌先がそれに触れた瞬間、味蕾は甘味の信号を脳に急速に送る。それと同時に、蜜そのものも私の舌の中に染み渡っていき……そのまま全身に甘味が広がっていく――。

とくっ……とくっ……

私の体が、喜びの声をあげている。次第に内側から熱り出した私の視界に、やや靄がかかる。

ぺろん、ぺろん……

私はカブトムシのように、木目に湧く蜜をひたすら舐め続けていた。

『――アリス、アリス、お茶会の準備は出来ました?』

頭の中に女王様の声が響き、私はドアから顔を離した。途端――私の頭の中から何かが駆け巡り始めて――

〔何でもない日にやりましょう〕

――意識せず、私の唇は私の知らない言語を、まるで知っているかのように紡ぎ出した。

その返答に、目の前のドアが、幽かにぷるぷると震え始めていた。私は一瞬、手を出そうかと思ったけど……出しちゃいけない気がした。私の思いじゃない。私の中にあるアリスの本能みたいなものが、まだその時じゃないことを告げていたから。

やがて、ドアの震えが収まったところで、女王様の声がまた響き始めた。

『ふふ……おりこうさま♪』

まるでそよ風のような優しい声が、私の心を通り抜けていく。聞いているだけで、心が暖かくなって、幸せになれる女王様の声が……。

ほわぁ……

ドアの木目の隙間から、女王様のフェロモンが漂ってくる……。

『私に会いたいときは、『アイリスアリス』のドアの前で、合言葉に私達の言語で答えてね。先程言ったのと同じような感じでいいから。そうしたら、ドアを私の胎内への入り口とリンクするわ』

胎内、その響きだけで、私の股間はじゅん、となった。優しく、私達を包み込んでくれるあの胎内、そこに私は行けるんだ、という喜びが、私の中で何重にも廻る。

『出来るなら、服は無い方がいいわね。私の蜜が付いた服は、それだけで他の人を引き寄せてしまう服になってしまうから……』

取れるものなら、良かったのかもしれないけど、女王様のフェロモンは、あらゆる物に染み付いてとれることはない。私達アリスが気配を操れるのは、それを抑えるためでもあるという。

「あはぁ……じょお……さまぁ……」

女王様に言われるままに、私は服を脱いではドアを開いて従業員専用の着替え用ロッカーの中に衣服を丁寧に畳んで入れていく。裏通りは、幸いなことに人通りは皆無に等しい。女王様による結界――だと考えれば納得はする。と同時に私は女王様の計らいに感謝した。これでもし他の人物が通りかかって私の姿を見られたとしたら……いろいろと私の人生が終わってしまうだろう。

女王様の心遣いに内心、感謝の念を抱きながら、私は靴をロッカーに入れ、湯気に包まれる時以外は誰にも見せない――女王様と家族以外に見せたことの無い裸を、誰の姿も見えない外で晒した。

『ふふふっ……いい子ね……♪』

とくん……

「……あはぁ……」

女王様の声に反応するように、体の奥底に眠る何かが、私の体に喜びの波動を送り込む。それだけで……私の意識は凡て、幸福の感情に塗られていく。塗り替えられていく。

ぐにゅ……にゅ……

目の前にある木目が、私の目の前で淫らな音を立てて開いていく……。上下に開かれたその唇は、女王様の分泌する蜜が糸の橋を引いて、橋からとろとろと地面へと流れ落ちていく。

くぱ、くぱと開くその口は、私には何か語りかけているようにも見えていた。いや、実際に語りかけているのかもしれない。何故なら、これは女王様の体なのだから。

――おいで、おいで、私の中に。おいで、おいで、私のアリス――

「あぁ……じょ……おお……さま……ぁ……」

その呼び声は、もしかしたら私の思いだったのかもしれない。でも、それでも構わなかった。今、私の頭は、女王様に会える、女王様の胎内に入れる、その喜びで埋め尽くされていた。

ゆっくりと――手をドアに開いた唇の中に差し込んでいく。まるで、自分の手が男の人のそれであるかのよう……!

ぬちゃぁ……

「―――!!!!!!」

差し込んだ腕から、雷でも浴びせられたかのような、脳が一瞬フリーズする量の情報が私の中に雪崩れ込んできた!そのあまりの量に、私の体はがくがく震え、膝の力が一気に抜けてしまった……。

私が腕を差し込んだドアの中では、幾つものぬるぬるとした舌が、私の腕を、手を、指の間を執拗に、じんわりと舐め擽っていた。掌に刻まれている相や、爪の間、指紋や関節の皴を、女王様の蜜を塗りたくりながら淫らな愛撫を幾度となく繰り返していく……。

入り口である木目だった筈の唇は、まるで甘噛みでもするかのように私の腕をむぐむぐと圧迫して、少しずつ飲み込んでいく………。

ほわぁ……

腕が呑み込まれていくのに従って、目の前にある淫らな唇は気が狂いそうな程に甘い香りを私に向けて吐き出していく……。

「……あはぁ……」

いいかおり……もっとちかくで……もっと……もっとぉ……。

立ち上がったとき、僅かに地面でぬちゃぁ、という音がした。下半身が幽かに、とくん、とくんと脈打っている。どうも、知らない間に達してしまっていたらしい。脚もべとべとで、太股とふくらはぎの間には淫らな吊り橋が架かっていた。

でもそんな事は気にならなかった。今は、女王様の香りを――。

片腕を飲み込んだ唇の奥は、果たして肉世界が広がっていた。瑞々しいピンク色の襞がぷるぷると震え、表面は分泌される蜜でてらてらと光り、たぷたぷと下の方で溢れ返っている。所々から飛び出た触手は、先端に開いた穴からとろとろと蜜をたらしながら、誰かが来るのを今か今かと待ち構えている。そして、全ての人間をこの淫らな肉壺へと誘いかけるような、ねっとりとした甘い香りが、入り口からふぉ……ふぉ……と漏れ出している……。

「………あはぁ………」

私はゆっくりと割れ目に顔を近づけ、蜜を舐めようと舌を精一杯伸ばした。

舌先が'唇'の端に触れた――その瞬間だった。

ぐにゅうんっ!

「!?んんっ!」

唇が一瞬大きく開いて、私の肩口までを一気にくわえ込んだ!一気に身動きがとれなくなって、驚きのあまりじたばたしている私を、唇はゆっくりと奥へと送り込んでいく……。

「―――〜〜〜ッ!」

唇の中では、外から見えた風景から想像できる通りの動きが起こっていた。

ピンク色の肉壁は、確かな弾力と柔軟性を兼ね備えて、私の体のあらゆる場所をまさぐっている。ねっとりとした粘度の高い蜜は、艶かしい肉襞の動きを時間差で――染み込んだ肌の奥まで伝えてくる。ぷるぷると微振動する様子さえ、神経に直に伝えてくるのだ。

「あはんんむっ!?」

全身に行われる決め細やかな愛撫に私の体は大きく反り返った。思わず叫んだ私の口に、一本の触手がその身を滑り込ませてきた!

口を閉じる暇もなく侵入したそれは、纏った蜜を舌や食道に擦り付けながら体の中を進んでいく――。本来だったら吐き出したい程の嫌悪感に襲われる筈のそれは、

「んんんんんっ!」

私の中に快感の種を残していった。それらが芽吹き花咲くとき、私の華は溜め込んだ蜜を女王様に明け渡すだろう――!

「!?」

口に入った触手の根本が、大きく膨らんだ。それは食道を圧し広げながら、先端の方へと向かっていく。

息苦しさは不思議なことに感じなかった。それどころか――、

「んむんんっ……んんっ!」

触手の表面が食道や内臓に触れる度、私の体が打ち上げられた小魚のようにびくん、びくんと跳ねた。多分女王様の蜜の影響かもしれない。塗られた場所が、少しずつじんじんとし始めて、少しの刺激でも過敏に反応するようになっていた。

事実、私の肌が――

「ん……んんっ……」

――肌が、風で感じていた。

女王様の体の中は、女王様の高密度のフェロモンで満たされている。糖蜜と練乳を何十乗にも煮詰めて、媚薬の中に混ぜ込んで気化させたようなそれは、私の全身のあらゆる所から染み渡っていくだけでなく、唇の開閉によって止まることなく動かされ、確かな質量をもって私の肌を愛撫していたのだ。染み込んだ体内でもその効果は変わらず、内壁の感度を上げ、痛覚を極限まで抑えてくれていた。

「んんっ……んももんっ!?」

触手の膨らみが、ついに先端まで行き着いた!閉じている先端が、その穴を解放しようとぷるぷると震え出す。だぷんだぷんと重心の安定しない、方向の予測が出来ない圧力が私の内壁にかかり、じんともどかしい感覚が私の中を駆け巡る。

そして――ぶるるっ、と触手が大きく身震いをした瞬間――!

どびゅる゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛〜〜〜ッ!」

先を狭めたホースからの放水のように勢い良く、大量の液体が私の中に放出された!まるで中の液体を絞り出すかのように、体内の肉の管はびゅくん、びゅくんと跳ね回る!

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛〜〜〜ッ!」

じゅぽんっ

その時、漸く両足も女王様の体内に飲み込まれ、蜜をたっぷりと浴びせられた。蜜と一緒に、女王様のフェロモンも足に一気に染み込んでいって――!

「んうんっ!んうんっっ!」

どくんっ!どくぅんっ!

私を取り巻く肉壁全体が大きく脈動している!まるで大太鼓の中に入ってしまったかのように、様々な方向に反響して、空気を震わせて、私の体を大きく揺らして――

とくんっ!とくんっ!

――あ……

――わたしのしんぞう……

次第に、私の内側から沸き立つ鼓動も、その音に同化し始めた。互いに共鳴し合って、細胞の一つ一つすら沸き立つような感覚が、私に熱を与えていく――!

「んむんぅんんっ!」

ぷしゅゃああぃぁぁぃぁぁぁ……

注ぎ込まれた蜜の大半は体内に吸収されたけど、吸収しきれない分が一気に体から放出された。肛門を押し広げて、黄金色の蜜が大量に流れ落ちていく……。

どくんっ!

「!?」

その瞬間、私の体内に植えられた快感の種が、芽吹くのを感じた。それは注入された蜜が与える快感を糧に一気に成長していく!

「!!!???」

神経系統に根を張り、腸の内壁を大きく巻き込んで――もしこれに実体があるのなら、私の口から蔦が一本出てきていたのかもしれない。

「んぉぉんんっ!!??」

そして、体全体に根が行き渡った――そう感じた瞬間だった。

ぷしゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!

「んむんぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんっ!」

私は、秘所から蓄えられていた蜜を一気に吐き出して――果てた。

気を失う寸前、私が感じたものは、ぴくぴくと震える体の様子と、妖艶に花開いていく秘部の感覚だけだった……。

とくん………

とくぅん………


『――ナ・アリス、ナズナ・アリス、聞こえますか?』

(……あ、はぁい、じょお……さまぁ……)

じょおーさまのこえ……

じょおーさまのなか……

あったかい……

『改めて……ようこそ。よく来てくれたわね。女王として、貴女を歓迎するわ』

(!ありがとうございますぅっ!)

じょおーさまに……よばれたんだぁ……うれしい……うれしさだけで……とけちゃいそう……

……あは?わたしのからだ……アリスになってるぅ……とろとろぉ……

『うふふ……やっぱり、人間って不思議よね……』

(……ふぇ?)

あれぇ……なにをじょおーさまはいっているのぉ……?

『あ、ごめんなさいね。貴女とミイが全く別のアリスになったから、それが私にとって驚きなのよ』

(みい……?)

いったいみいは……どんなアリスになったんだろう……?

『ミイも、貴女のアリス姿を見たいみたいだから……』

(みいも……わたしの……)

「きゅうんっ!おねえちゃんっ!」

「……わぁっ!」


夢見心地のまま、意識だけ覚醒した私の目の前にいたのは、傷一つ無くなった体を惜しげもなくさらけ出した美井――ミイだった。

ただし、耳は三角形のものが髪の間から大きく突き出て、尾てい骨からはふさふさとした尻尾が生えていて、肘や膝から先もふさふさの毛で覆われていて、掌にはいかにも柔らかそうな肉球がぽこぽこと盛り上がっていたけど。

「……犬?」

どうやら、ミイ・アリスは犬娘らしい。子犬のような元気良さ、とは言ったけど、まさか本当に子犬になっていたとは……。

「きゃうん!くぅん!」

そんな私の考えなど露知らず、ミイは私に飛び掛かった後で、体の感触を確かめるかのように私の上でぷにぷにと体のあちこちを触っていた。その顔は、明らかに女王様のフェロモンを受けてまっ赤っかだ。

「くぅん……お姉ちゃん……お姉ちゃぁんっ……」

そのまま私の胸に顔を埋めるミイ。どちらかと言うと壁と表現した方が良い私の胸は、ミイが顔を埋めた体積分だけ盛り上がり、耳があった場所などを覆っていく……。

……ぽたん、ぽたん……

「――!?」

突然ミイが、私の胸に顔を押し付けたまま――泣き始めた。その涙は、私の体に当たっては吸収されていく。体に――心に。

涙に込められた感情が、私の中に響き渡っていく。その感情を裏付けるかのように……ナナは叫んだ。

「おねえちゃぁんっ!だいすきだよぉっ!いじめてごめぇんっ!なにもできなかったのぉっ!おとうさんもおかあさんもこわかったのぉっ!ほんとはおねえちゃんとあそびたかったのぉっ!おねえちゃんをまもりたかったのぉっ!でもなにもできなかったのぉっ!ごめぇんっ!ごめぇんっっ……!」

……悔しさ、悲しさ、切なさ、やるせなさ、それらの感情が、ミイの言葉の一文字一音に込められていた。最後には私の胸に顔を押し当てて、わんわんと泣き出していたミイ。ずっと抱えていた思いが、涙へと姿を変えて私の中に流れ込んでいく――。

だきっ

「……お……ねぇ……ちゃん?」

……いつから――私はこうしてなかったんだろう。この子に対しても、私は何も出来なかった。私もあの時、無力だった。

全てを守ることが出来るわけではない。だから私の思いも、我儘な一面があるのかもしれない。

何かを守るために、何かを守ることを止める。意図的にしろ無意識的にしろ、私はそれをやっていた。

家族を壊れないように、自分が耐えればいいと思って。

「………ありがとう。大丈夫だよ………ミイ」

結果として、ミイが苦しんでしまった。そんなミイに、あの時私は何も出来なかった。

でも……今は――。

「受け止めてあげる……貴女の悲しみも、辛かったことも全て……」

私は、スライム状になった腕を伸ばして、ミイを抱き締めた。

「お……ねぇ……ちゃん」

ほわぁ……と、抱き締めた場所から暖かくなっていく……。女王様の体の中も、さらに心地よい空間に変わっていく……。

このまま二人、心地よさに身を任せていたい……。

びゅるっ

「……?」

私の下半身に、何か生暖かい液体がかけられた。仄かに甘いある程度の粘り気を持ったそれは、丁度私の股間辺りで震えている何かによって発射された物のようだ……。

ふとミイの顔を覗いてみると……、

「あはぁぁぁ……♪」

妹は、あまりの気持ち良さに魂が抜けてしまっているような、所謂放心状態になっていた。いきははぁはぁと荒く、体は人体よりほんの少し暖かく――股間の何かを震わせながら。

「………」

私がそちらに視界を移すと――納得。

妹の秘唇の少し上辺りから、見るも立派な逸物が、その身を脈打たせて反り返っていた。保健の授業で見た男性器の形をそのまま表したようなその先端には、幽かにこびりついた、白濁した液体状のものが仄かに甘い香りを放っていた。

「ああ……はぁっ……」

ミイは秘めたものを解き放ったような、心からの笑顔を私に向けていた。先端が幽かに垂れ下がった犬耳、星をこれでもかという程に散りばめた瞳、粘液を撒き散らしながら左右に振られる尻尾、飼い主を押し倒す子犬のような体勢――そのどれもが愛くるしくて、私じゃなくても思わず抱き付きたくなってしまうだろう。

ただ――私に向ける妹の瞳は、解放された、と言い切るには違う、別の光も含まれていた。

「あはは……あははっ……おねえちゃんっ……」

肉球付きの両手で私の肩を押さえながら、熱の籠った瞳で私の目をまっすぐに見つめるミイ。股間の逸物は、私の微妙に閉じられた筋に這わせるように前後されて、幽かにヴァイブレーションを送り込んでくる……。多分、もう少し開いたら、この子は躊躇も無しに私の中に突き刺すだろう。

「あはぁ……おねえちゃん……?」

獲物を捕らえた狩人の目――今のミイは、一匹の猟犬だ。ただ、お預けを食らっているだけの。もし解ければ、ミイは本能のままに私を犯し尽くすだろう。

「ふふっ……」

でも、私はその事に恐怖を感じはしなかった。寧ろ、嬉しいと思ってすらいる自分がいた。ミイが、ミイ自身のの思うままに動いている――!

「あはぁ……んんっ!?」

私は両腕を伸ばしてミイの顔を掴むと、そのまま顔を近づけて、唇を唇で塞いだ。

「ん――んんっ……」

「んむ……んんっ!」

そのまま私は、ミイの中に舌を突き入れていく。抵抗するかと思ったけど、意外なことにミイにその気配はなかった。それどころか、キスした瞬間にその先の行動も完全に読んでいたのか、舌を伸ばして、私の舌と絡ませようとしてきたのだ。

「ん……んふんっ……」

「んむ……むうんっ!」

まだ少し待っててね、ミイ……。

私はミイの口の中で舌を二本に分けると、一本をミイの舌に絡ませながら、もう一本でミイの中を舐め解した。歯茎、歯間、唇の裏、犬歯、奥歯、親知らず、歯の裏唾液腺、口内粘膜、舌の裏……ありとあらゆる場所に、私は唾液を塗りつけていった。

同時にミイと私の舌で、赤と青の螺旋を描いていく。時折きゅっきゅっと締めると、ミイの体はびくびくと震え、先走りらしい液体が私の'唇'に落とされていく。

「んんふっ……」

「んん……んぅっ!」

ミイの口内を完全に蹂躙し終えた私は、その舌を一つには戻さず、絡めた舌の上からさらに巻き付かせた。

ミイの口の中で、三匹の蛞蝓が飼い主の思いのままに快感を貪ろうと動いている……。ぐにゅぐにゅ、にゅぐにゅぐ、ぬるぬる、ぬらぬら、淫らな音を立てながら、分泌した粘液を互いにかき混ぜ合っている……。

「ん………んふん……」

そのうち、段々と舌の境界線が曖昧になっていった……それどころか、唇すらもとより無かったように思えた。ミイの鼓動すら、私の中から響いているように感じられて――

「ん……んんん………ぷは」

――唇の間に橋を架けながら、私は唇を外した。これ以上一体化したら、マズイと思ったから。

私も……快感の余波で視界が白に染まりつつあった。桃色の肉世界が、所々白く染まっていた。

「………あ………」

それでも、ミイの今の状況よりは軽度だ。瞳は星が消え暗い光を放ち、惚けた笑顔を浮かべ、半開きの口から涎を垂らし、体を幽かにふるふる震わせ――逸物がピクピクと痙攣して、先端が幽かにぱくぱくと口を開いている。今にも、少しでも刺激を与えたらそのまま逝ってしまいそうな気配――。

「……ふふっ」

私はそんなミイを抱き上げた。アリス化した特性で人肌より暖かな妹の体温が、私の体に伝わってくる――。

「ねえ……ミイ……?」

私は、ミイの目を見つめて語りかけた。

「……おね……ちゃ……?」

幽かに瞳に焦点が戻ったミイは、まだあまり回転していない頭を何とか回転させて、私に返事をした。その顔は――何かを期待しているような笑顔。

びくんっ!びくくんっ!

肉棒が、ミイの感情に合わせて二三回跳ねた。その度に漏れた白濁液は、他の人を魅了する甘い芳香を放ちながら、私の肌に当たっては吸収されていく……。

私は、ミイの体の位置を調整して――言った。

「ミイ……貴女の全て、受け入れてあげる――」

――その声が女王様の肉壁に反響するより前に――

ず    ぼ    ぁ    っ    !

「―――!!!!!!!!!!!!!!」

ミイの逸物を、花開いた私の秘部に一気に受け入れた。

「きゃああぁぁぁぁぁぅぅぅうううううううんっ!」

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああんっ!」

ミイの逸物に、私の膣は一気に密着した。むにむに、みちみちと全方位からかかる圧力に、ミイは喜びの叫びをあげ、腰を激しく振った。

激しく抜き差しされるペニスに、私は体が撹拌される感覚を覚えた。妹の思うままに、私が創り直されていくような、そんな気さえする程に。

「はっ!はっ!はっ!きゃうんっ!」

私の奥目掛けて、一心不乱に腰を振るミイ。その動きに合わせるように、タイミングを合わせて私もスライムの濃度を変える。

「あんっ!あんっ!あんっ!あぁあんっ!」

妹の逸物が深く刺さる度に、私の全身に電流が駆け抜ける。そして、今か今かと来るであろうその時が恋しくなる。

――今は離したくなかった。

「きゃうっ!?」

いつしか私の両腕は、ミイの体が私から遠ざからないように、背中全体に覆い被さるように変化していた。そのまま優しく、私の体に近付ける。

「きゅうんっ!おねえちゃんっ!おねえちゃむぐっ!」

スライムの体積を一部減らして、代わりに片胸を大きくする。そこにミイの口を押し付けた!

「んうっ!んうんっ!んうんんんんっ!」

ミイは離れようとしなかった。逆に顔をさらに押し付けて、腰を激しく振りつつ吸い付いてきたのだ!

「んあっ!あああっ!あああぁああああっ!」

増やした体積分の神経が集う胸を刺激され、私は体がばらばらになりそうな快感を受けた!同時に、ぽぅ……ぽぅ……と、私の体が明滅し始めた。優しい、黄金色に。次第にその光は、ミイの体も包み始める。背中から、お腹から――全身へ。

「あ――」

ミイの瞳が――私の光と同じ色を発した。

『浸透』

その能力の特徴は、気配が黄金色を纏って拡散される事だ。その光が相手を包み込んだとき、私の気持ちが相手の心に伝わる、ということ――。

今の私の意思はこうだ。

『さあ……安らかに……解き放って……』

そしてそれは――

「……お……ね……え……ちゃ……」

どびゅるるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜っ!どくっ!どくぅっ!

「「あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

私達姉妹は、同時に絶頂に達し――意識は光に包まれた。


――……ねえ、お姉ちゃん?

――……なに?美井。

――……あったかいね

――……うん……

――……お父さんもお母さんも……

――……うん

――……お姉ちゃん……

――……え?

ちゅっ

――……これからも……いっしょだよ

――……うん


私達が女王様の卵から再び産まれた時、既に時間は19時近くになっていた。

両親が心配していると思った私達は、女王様と成語さん、そして菜々さんにお別れを告げた。

私達の姿が見えなくなるまで、菜々さん達は手を振ってくれた。

嬉しかった。

帰った私達を待っていたのは、どこかそわそわしていたお母さんとお父さん、そして――

「あ………」

『なずなちゃん、お誕生日おめでとう!』と書かれた、テーブルの上のショートケーキ。

「おねえちゃん、誕生日おめでとう!」

背後から妹が抱きつく。仄かに立ち上る甘い香りが、私の心を落ち着けていく。

……そっか……そういえば今日は、自分の誕生日だったんだ……。

お母さんも、お父さんも、笑顔でそう私を祝ってくれた。

……そうなんだ。

今日は自分が産まれた日だったんだ……。

あの辛かった日々の中で、自分の事を忘れかけていたのかもしれない。

「………」

でも………。

これからは……。

ううん……。

これからだったら……。

「……ありがとう!」

幸せに、暮らせるよね?

これ以上待たせるのもいけないので、私はケーキに近づいて、蝋燭の火を一息で消した。

fin.


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