「……ぅぅぅ」
疼く。それが今のボクを表すのに、最も的確な表現だろう。本来だったら、その疼きすら愛おしく思う筈なんだけど、今――授業終了数分前だとそれも恨めしい。
ノートを取りつつ、ボクは視線を横に向けると、そこにはどこか頬を赤らめながら、うつらうつらと頭を前後に揺らしている、クリアブルーの髪の毛を持つ少女……って、アルエじゃないよ。期待してるところ悪いけどね。
彼女の名前は瀬能陸(せのりく)。今学期から同じ学校に通うことになった……超天然で、掴み所が色々な意味で無い女の子だ。ふわふわと動き、ゆらゆらと喋り、ほわほわと話す。俗に言う脳内お花畑かもしれない。けれど実際、彼女が居なければボクがここにいないのも事実だったりして……!
「……ぅぅぅ」
あと二分!あと二分耐えればボクは何とかイケるの!っていうかどんな夢見てるのよリクは!さっきからボクの心臓の脈打ち方が妙に色っぽいんだけど!あぁ……血管からドクドクって何か流されている感じがするし……股間がじんじんしてきた……。
「ひゅむ……アイカちゃん……うふふ……」
幽かに聞こえた寝言から、あのこがボクの夢を、しかも含み笑いからエッチな夢を見ていることはわかった。だからか……こんなに妙に火照っているのは!あぁ、もうっ!早く授業終了して!
C→E→D→G→……G→D→E→C~~♪
……セーフ。何とか耐えられた、第三部完。これで他のクラスでもありがちな、『授業中に無言の絶頂』を迎える心配はなくなったわ……。
まぁそれは兎も角、元凶となった愛しの陸ちゃんに、そろそろ起きてもらわないとねぇ。起こすとき、ボクにも刺激が凄いけど、気にしてらんないし。
……っはぁ……疼きが止まらない……。
「……」
ボクは、学校指定スタンガンを取り出して、半分溶けかけている彼女の、その手の甲にくっつけた。そして――!
「――起きなさぁいっ……ぃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「――ふゃあああああああああんっ♪」
――スイッチオン!高電圧で流し込まれる電撃に、明らかにマゾっ気ビンビンで感じている陸と、その余波を受けているボク。ほんっとに、仕方ないとはいえ難儀な体質だよ!何で気持ちよさそうによがってるんだろう彼女は!確かに痛覚がないとは聞いたけど、それが全部快楽神経ってどんな出鱈目よ……。
「~~~~~~ッ♪ふぁぁ……よく寝たぁ……♪」
おまけに気持ちよさそうに伸びをしているし……ボクの気苦労を返して……。
「……あ、アイカちゃん……しよ♪」
「しよ♪じゃないよっ!」
全く……脳味噌半生にとろけてるし!いや、実際彼女は脳味噌どころか体もとろけるんだけど。
「あのねぇ陸……ボクの心臓と血管は完全にキミの体なんだよ?」
「そ~だね~♪」
「その状態で、陸。キミが興奮したらボクの体まで興奮するようになっちゃうんだからね、分かってる?」
「?」
首を傾げる陸。いや、これは絶対、何が問題か分かっていない首傾げだ。これが彼女と自分の常識観念の違いだと言ってしまえばそれまでかもしれないけれど……。
「授業中に盛ったら人間の観念上マズいのよ。盛るなら、場所と時間を弁えてしなきゃね」
「ん~」
合点のいった声を出す陸。これで分かってくれるかと思ったボクの体は――次の瞬間、押し倒されて地面に倒れていた。リノリウムの床と私の背中の間にあるぷにぷにとした感触……。
「なら、今ここでしよ~♪」
――全然分かってないっていうか完全に擬態を解いてるし!
「ひゃうっ!や、やめぇ、やめてぇっ……ひぁあ!」
あっと言う間に左右の手も拘束され、内側から服を脱がされていくボク。既に本来の姿――スライムになった彼女になすがままにされることが確定してしまっていた。
「え~?」
どうしてそんなに嫌がるのか、分かっていないかのような声を出す陸。その瞳はどこまでも純粋で、純粋すぎて怖いくらいに輝いていた。
「や、だって、はずかし……」
ボクは精一杯抗弁するけど、彼女はそんなボクの言葉に、心からの笑顔でこう返したんだ。
「だって~、この学校はエッチ推奨だし~、今は授業中じゃないし~、みんな興味津々では見ないよ~♪
それにぃ~、アイカちゃんも我慢できてないでしょ~?」
……全部発言通りだったりするのが何とも涙を誘う。この学校……つまりボクが転入した梶院高校ではエッチが禁止されていないどころか推奨されているので、エッチをしていても誰も気に留める事はないのだ。
それでも人並みの羞恥心は持ち合わせているボクにとって、辛いものではあったりする。……発言権と拒否権は無いけど。
「うふふ~♪じゃあ、いただきまぁ~す♪」
動けないボクを包み込むように、陸は体をさらに広げるのだった……。
ボクの体は……その半分が陸の体だ。外見から分からないかもしれない。けど、それは間違いなく事実。だって、私の臓器類は突如現れた化け物に食べられてしまったから。
ガン、っていう化け物は、ボクの中から突然発生すると、瞬く間にボクの体を内側から蝕んでいった。医者も全員匙を投げた中で、ボクに救いの手を差し伸べたのは、近所に住む一見普通の夫婦だった。
彼らは、自らがスライムであることを明かした上で、ボクの両親に提案した。――ボクのガン細胞に侵された部位を、娘の――陸の体と置き換えることを。ただし一部の感覚が陸と一体化してしまうと言う副作用も含めて。
父さんと母さんは、当然悩んでいたよ。スライムと言う種族に関しても初めて聞かされるような事ばかりである上に、それがボクを助ける手段があるって言われて……悩んで、結局受け入れて……今のボクが此処にある。
外から見たら、ボクの体の中身が一部、スライムに置き換わって居るだなんて誰も分からないだろう。それは両親が夫妻に頼んだことでもあった。お願いします、娘を完全にスライムにしないで下さい、って。それを夫妻は受け入れて……こんなちぐはぐな体になってしまっていたりする。
まずどんなものでも吸収するから、風邪を引くことはないし、口に入るものなら……味覚はそのままだから食べたいと思うかは兎も角として、何を食べても栄養として体に行き渡るようにはなった。ただし、元から食べる気はないけど、乾燥剤は絶対食べられなくなった。食べたら……間違いなく瀕死。むしろ食べそうになる陸を私が押し留める事が多い気がするのは、多分気のせいではないだろう。
ガンだったときと比べて、格段に元気にはなったんだけど……それ以上に気疲れが増えてはいる。だって……『身体測定上の問題』から、陸と同じ学校に通うことになったはいいけれど……そこは、所謂世間一般で言うメルヘンやファンタジーに属する生物が通う場所だったりしたわけで。
常にカルチャーショックが付きまとった。多分外国に行くってこんな状態なんだろう。……言葉が通じるからマシなのか、言葉が通じるから辛いのか、ボクは分からない。ただ一言言うなら……言葉は通じるからと言って、話が通じる訳じゃない、ってこと……。
「ん~……」
液体状の体で両手足及び胴体を包み込みながら、陸はボクの顔に向けて、唇を窄めながら目を瞑り迫ってきた。ちゃっかり頭まで固定されているのが恨めしい。
「ん~!!!!」
一応抵抗してみせるけど、流石に地力が違いすぎる。その上、ボクの力は全部受け流されたり吸収されたりして通じないわけで……。と言うより、肌から直に力を吸われて、体の中からも弛緩剤を流すのは卑怯だと思う。
ぷにょん、と背中にスライムが当たる音。既にボクの全身、力が抜けきった状態だったりする。それをうけて、いよいよ顔を迫らせる陸。
「……ん」
抵抗できないまま、ボクの唇は陸のぷにぷにしたソレによって覆われた。同時に、生暖かい舌がボクの中に突き入れられ……奥へ奥へと進んでいく。
普通なら吐き気の一つでも催すところなんだけど、残念ながらボクの体は真逆の感情を抱いてしまう。もっと、もっと入れて欲しいと。
それに応えるように、陸はさらにボクの中に舌を伸ばしていく。しっかり気道は確保しているのが何とも手慣れていると言うか。
「!~~~ッ!ッ!ッ!」
陸の体が私の中を奥へと進み、食道や気管支の周辺を擦る度に、ボクの体は面白いくらいビクビクと跳ねる。まるで電気ショックを何度も放たれているみたいだ。それも、痛みの感じない、ただ気持ちいいだけの刺激を。
『……うふふ~♪アイカちゃぁ~ん♪予後は順調だよぉ~♪』
それは良かった。陸の体と私の体の整合と、ガン細胞の再発具合の確認、及び対処。陸がボクと一緒になろうとするのは、これらを行うという大義名分もある。それを同化した体の中から叫び声を挙げることは止めて欲しいけど。
「~~ッ!」
だって只でさえ性感帯になっているボクの内臓が、ここぞとばかりに揺れて、既に入り込んだ陸の体と擦れ合っちゃうんだもん。細胞を繋ぐ神経が直に振るわされて、彼女の体が快感の変圧器と化して、まるでナイアガラの滝の如く盛大に快楽信号を流し込んでくるわけで……!
「!!ッッッ!ッ!!」
下半身からも新たな刺激。どうやら……もう体の中を制圧されてしまったらしい。くちゅくちゅと、股間からだらしない音を立てて何かが溢れてくるのがわかる。あぁ……はしたなさ過ぎるよボク……お嫁に行けない……っ!
「――ッッッッッッ!!!」
ちょ、ちょっと陸!その動きは――っ!
『大丈夫♪私がお嫁さんになってあげるから♪』
って、そんな告白要らないから!や、何でクラスの子達は拍手して、ってお嫁さんになることが出来ちゃうって事なの!?
体内からの、読心を用いた唐突な告白と、それに対するクラスメートからの暖かい拍手。それに戸惑うボクに、心の防護壁など張る余裕はなくて――!
「――ッンムンンンーッッ!」
『えへへぇ……アイカちゃんのここ、とっても美味しいよぉ♪』
わざわざそんな事報告しなくて良いわよ!なんて反論の一つも出来はしない。だって……口塞がれているし。読心されても『アイカちゃんは'つんでれ'だからね~♪』だし。
ボクの肛門から現れた陸の体は、そのまま舌のようになって、私の塗れた股間にそれを潜り込ませて、処女膜を傷つけないように舐め擽っている。既に彼女の影響でボクの全身も火照り、彼女を求めるように神秘の液体を含んだ唇がその舌を招いていく……!
まだ誰もお招きしていないボクのその場所は、表面張力よりも刺激に敏感だ。快楽神経だけ極端に引き上げられているのもあって、一舐め一舐めがまるで毛羽立った羽をローションで濡らして、尾てい骨から肩胛骨のラインまで背骨に沿って撫でられているような刺激が――っ!
「ッッッッ!」
ぼ、ボクの内臓が陸の刺激に反応して……や、ひぅっ!り、陸……体の中も、一緒に舐めて――ひぁぁあっ!
『ふふふ~♪アイカちゃん、どんどん気持ちよくしてあげる~♪』
さ、さらに、今まで敢えて触れていなかったらしい両乳首を――ふきゅぅうっ!
『あ~♪アイカちゃんの乳首、コリコリしてる~♪』
――既に発情も良いところの私の全身を、同じように完全に盛っている陸が好きなように弄んでいる。
両乳首に二つの口で吸い付きながら弾力性のある歯を突き立てて。
いつの間にか気管支周辺の細胞まで陸の体が浸食していたりして、体の内側からも舐め擽られて。
肛門からひょっこり顔を出した陸の体は相変わらずボクの股間に舌を伸ばしつつ、お尻の肉を揉み上げて――!
「――ンンンッンッン゛ン゛ン゛ーーッ!」
服の内側からボクの全身を完全に包んだ陸は、いよいよ彼女の全身を持ってボクを舐め擽るのと同時に吸い付き、優しく締め上げていった!ボクの皮膚が二重になったような、それでいて気持ちよさが二倍になったような不思議な感覚がボクを全力で襲う!もう――限界だ!
「――ンンンンンンンッッッッッ!」
「――あはぁ♪ようやく素直になってくれたねぇ~♪」
――内側からも、外側からも、絶え間ない快楽の刺激を受け続けたボクは……今日もまた意識を手放し、陸に体全体を好きなようにされながら、また一つ、人間から遠ざかっていくのだった……。
fin.