「ただいまー」
いつものように買出しから帰ってきたかなや。しかし、普段はすぐに出迎えてくれるはずのさはらの姿が見えない。少し気にはなったものの、いつものように水分不足になってぐったりしているんだろう、などと考えながら奥の部屋に進んでいく。
そして、食料を片付け終え一息つこうとしたその時、ふと、頭の上に「ピチャッ」と何かが降ってきた。手で触って見てみると、それは真っ赤でぬるぬるとした粘り気がある液体。そしてよく知っている甘い香りがする。
まさか、と思い振り返ろうとしたその瞬間、
「かなやさぁーん」
その声とともに後ろから何かがシュルシュルと伸びてきた。
「なに…するんだよ、さはら」
不意にかなやは言葉を発する。かなやの体にはさっき彼女に向かって伸びてきた液体とも個体ともつかないような赤い棒状のものが２本絡み付いている。この物体は…。
「かなやさん。同族以外で初めて仲良くしてくれた、わたしの最初のお友達…。」
後ろからさはらの声がする。さっきからかなやの体に絡み付いているのは…さはらの腕だ。天井から赤い粘液がじゅるじゅると垂れ、その先にさはらの上半身だけがにゅっと逆さまに生えている。いつもは、恥ずかしいからと服を着ているように見せている擬態は今日はなぜかしておらず裸の姿を露出している。
「わたし、かなやさんのことが大好きです。でも…」
さはらの腕は糊のようにべったりとへばりつきかなやの体を離そうとしない。
「今のままじゃ何かが足りない。もっと近くにいたい。もっと一緒になりたいんです」
絡みつく腕が徐々に力を増す。
「ど、どうしたのさはら？なんかへんなものでもたべたの？」
唐突にわけのわからない事を言い出すさはらにかなやは戸惑いを隠せない。
「ね…、かなやさん『わたし達』の同胞になってください」
さらに、言葉を続けるさはら。明らかにさはらの様子がいつもと違う。それに、わたし「たち」？
ここにはわたしとさはらのふたりしかいないはずなのに…。と、かなやがそう思った矢先、部屋のいたるところからさはらの体色と同じ色の真っ赤な粘液がじゅるじゅると溢れ出す。
「！な、なにこれ…」
突然の出来事にかなやは目を見開く。
ぐちゅ、ぐちゅり。
床下から、天井から、水道の蛇口から、排水口から、数え切れない程の場所から不気味な音を立てながら粘液は溢れ、増殖を続け、瞬く間に部屋中を飲み込んでしまう。
そして―――。
ぐにゅぐにゅ。ぐにゃり。
粘液が盛り上がり始め、あちこちに少女らしき女体の上半身が形成されていく。
「ウフフ」
「あはっ」
一人、また一人とすぐさま数は増えていき、あっという間にかなやの周りを取り囲んでしまう。彼女達はさはらと同じ色の体をし、胸の奥に赤茶色のコアを宿している。さはらと同じかちょっと年上そうな顔つきな子から、かなやより幼そうな子まで様々だ。どうやらさはらが仲間を呼び寄せていたらしい。
そして、その娘達は腕を一斉に上げたかと思いきや、彼女達の手は指が巻きつくようにひとつに束なり、その腕は次第に伸び始め触手のようにうねうねと動き出す。そして、さはらと同じように、その腕をかなやの体に絡み付かせようとしてくる。
「！や、やめっ…」
抵抗しようにもすでにさはらに取り憑かれ身動きが取れないかなやは、他のスラ娘たちにもたやすく拘束されてしまう。
「ね？さはらちゃんのこと好きなんでしょ？」
触手状の腕をねちゃりとかなやの腕に絡ませながら一人が話しかけてくる。
「なら、さはらちゃんと一緒になっちゃえばきっともっと好きになれるよぉ」
また一人。ぬりゅ、と今度は脚に絡まりながら話しかけてくる。だが、目まぐるしく変わっていく状況を把握しきれていないかなやには、その言葉を耳に入れるような余裕は残されていない。それより、何とか必死になってこの触手の網から抜け出そうとするが、何故か足に力が入らない…。いや、そもそも足の感覚が無い…？
「かなやさん…。ほら…もうかなやさんの体は私達の一部…。」
その言葉に反応するかのように、すぐさま足元を確認するかなや。
しかし、目にしたものは―――。
「―――ッ！！」
なんとすでに足元にも大量のスライムが押し寄せかなやの足をずぶずぶと飲み込んでしまっていたのだ。しかし、かなやが衝撃を受けたのはそれではない。かなやが視線を送った自らの足の先。それはすでにスライムに侵食され形を失いどろどろに溶かされていた。そしてその直後、さはらを含むスラ娘達が巻き付かせている腕も同様にかなやの衣服、体を溶かし始め、ゆっくりと同化していき、かなやの衣服である黒色と混ざり合っていく。
「あ…、あぁ…」
もう自分には逃げ場がない。そう悟ったのか、かなやの体から力が抜けていき、声にならない声を上げながらだらりと体が前のめりになる。
「かなやさん…、さ、私達と一緒になるです。」
甘い口調とともにさはらは天井からさらに体を伸ばし、かなやの顔に自らの唇を近づけていく。もうほとんど抗う気力も残っていないかなや。だが、さはらの顔が近づくたびに恐怖心が一層強くなっていく。
「やだ、やめて…さはら…」
さはらの顔がさらに近づく。
「ね、おねがい…」
かなやの声を優しく受け止めるように笑顔で返すさはら。しかし、なおも彼女は近づいていき…、
―ちゅっ。
「！！？」
とうとうかなやの唇にさはらの唇が触れる。
そして…。
とくっ。とくっ。
さはらは、唇を奪われてパニックに陥っているかなやの口の中に、舌を通じて自らの体液を少しずつ流し込み始めた。かなやの口の中にさはらの甘い体液が広がっていく。
「ん、んむっ…」
かなやの口の中が甘い香りで満たされる。さはらの体さえ食べてしまったことがあるかなやだが、今、口の中に広がるさはらの味は、その時よりさらに甘みを増しているように感じた。
さはらは、唇を離し今度は「はぁー」と、吐息を浴びせる。その吐息も甘く、錯乱していたかなやの思考が少しずつ鈍くなる。
「やるねー、さはら」
「うんうん、もう一押しかなぁ」
「じゃあ、もっと可愛がってあげなくちゃね」
さはらとかなやのやり取りを見ていたスラ娘達は、かなやの四肢を拘束したまま更なる行動に移りだした。かなやに自分の顔を近づけ、ぺろぺろと体を舐め始めたのである。
「どぉ？気持ちいい？」
「ほら、こぉして」
ぺろぺろ、ぬちゃっ。
スライムである彼女達は舌さえもやたら粘り気がある。
「んっ…」
くすぐったいのか、かなやは喘ぎ声を漏らす。さらに、腕がまだ自由なスラ娘達は、かなやに様々な場所からぺとぺとと抱きついた。ひときわべったりとした感触がかなやに伝わってくる。
ぺろり、ちゅる、くちゃっ。
先程のスラ娘達に加え、抱きついてきたスラ娘達も一緒になり、なおも体を舐め続ける。
「ん、んんぅ…」
かなやの声色が次第に変わってきた。どことなく甘い響きが混じりだす。そして、段々と彼女の瞳がまどろみ始める。
「気持ちいいのかなぁ～」
「もっと気持ちよくしてあげるねぇ」
スラ娘たちがそういうやいなや、すっかり部屋全体を包み込んでしまったスラ娘たちの体液の海から、無数の触手状の赤い蔓が伸び始める。それはねっとりと糸を引き、互いに絡み合いながら、かなやに近づいてくる。
「えいっ！」
しゅるるるっ。
一人のスラ娘の掛け声と同時に、一斉に触手がかなやの体に絡みつく。
もぞり、くしゅっ。
絡みついた触手はうねうねと蠢き、体中をくすぐり始める。
「～～～～っ！」
かなやは悲鳴を上げる。しかし、スラ娘たちに愛でられることに対して、かなやの中にはすでに恐れや困惑のなかに、少しずつ快感を覚えるようになっていた。
巻きついた触手がさらにかなやの体を少しずつ溶かし始める。かなやはそれさえも段々と気持ちよくなって―――。
「おねがい、もっと…」
なんと、弄ばれることを自ら懇願するまでになっていた。
「気持ちいいでしょう？かなやさん。さぁ、そろそろ仕上げですよ」
新たな触手があちこちから伸び始めさらにかなやに巻きついていく。
「えぇー、もう終わらせちゃうのー？」
「もっと遊びたいのになぁ」
スラ娘達が少しだけ不満げな声をあげた。だが、少しの沈黙の後、わかったよ。という風に頷く。その直後、かなやの周囲にいたスラ娘達は膨張し始め、その粘液はぬるり、ぬるりとかなやの体を這いながらピッタリと彼女の体を覆い包んでいく。かなやの腰へ、胸へ、そしてとうとう首まで包み込んでしまう。
「はぁっ…、はぁ…、はっ…」
かなやはすでに、息も絶え絶えになり意識ももうろうとしているようだ。
だが。
「さはら…。いっしょ…になろ」
ついにかなやの口からも同化を求める声がこぼれた。
「はい…かなやさん」
そのかなやの言葉を合図にするかのように、再びスライムは膨張を始め、
にゅる。ずずっ。
かなやの顔、頭まで覆いかぶさり、完全にかなやの体を包み込んでしまった。
ぐちゅり、くっちゅくっちゅ。
かなやを包んでいるスライムが動き始め、しきりに彼女を揉みしだく。
「んん、んあぁ…」
気持ち良さのあまり、恥じらいも無く喘ぎ声をあげるかなや。
くちゃ。にゅるる。
腕、脚、かなやの小さな胸。ありとあらゆる部位の回りを彼女を包んでいるスライムが蠢き、刺激を与えていく。
「んんうぅー…」
ぐじゅ。じゅるじゅるじゅる。
と、その時突然、かなやを包み込んでいたスライムが徐々に形を失い始めた。スライムで包み込まれたかなやのシルエットは崩れ始め、スライムに透けていた彼女の体もうっすらとぼやけ、次第に見えなくなっていった。かなやを包み込んでいたスライムはゆっくりと沈み始め、部屋を埋め尽くすスライムの海に溶け込んでいった。残されているのはさはらと無数のスラ娘達。と、その時。
「あは、あはははは…。」
完全に姿が見えなくなった、そのはずのかなやの声がどこからともなく響き渡る。
「………」
無言のまま、不意にさはらは天井からでろりと床に広がる粘液に垂れ落ち、そのままかなやが沈んでいった場所に身を這わせていき、そして、
ずぶずぶ…。
自らもかなやのいた場所に沈みこんでいった。その直後、その場所が再び盛り上がり始め、形を変えながら小さな繭を形成する。
「んぅ、さはらぁ…」
かなやの声が繭の中から聞こえてくる。それに引き寄せられるように、ほかのスラ娘達もその繭に溶け込んでいき、
「あはは」
「くすくす」
かなやの声と重なりながら幾重もの笑い声が繭の中で響きあう。繭はスラ娘達が溶け込んでいくたびに徐々に徐々に大きくなっていき、下に広がる粘液に繋がるように糸を引き始める。そして、スラ娘達が溶け込むたびに繭の中で、くちゅくちゅ、にゅるにゅると何かが蠢くような音が響く。最後の娘が溶け込んだ頃には、すでに高さ2メートルを超えるくらいの大きな繭になっていた。
「ふふふ」
ぐじゅる。ねちゃっ。
「あはぁっ」
しばらく笑い声と粘液の音が混ざりながら響き渡っていたが、数分の後、突然静かになる。
そして、次の瞬間。
くしゃっ。にゅるり。ぐにゅにゅ。ずずず。
繭にひびが入り、そこから粘液が溢れ出す。繭自体も段々と溶け出していき、粘液と一体化し、それは一度筒状に伸びていく。その後次第に変形し始め、人の姿を象り始める。その姿は…。
「うぅん。あはっ♪」
見慣れた猫耳、しっぽ、ぺたんこな胸、アンテナのように生えるあほ毛。スライムの繭が変化した姿はかなやそのものであった。しかし、白みがかっていた肌や透明感のあった白髪、耳、しっぽ等全身が、さはらたちと同じように赤く染まり、どろどろの体液を溢れさせながら、機嫌良さげに笑い声を上げる。そして、かなやの胸の中心にはさはらの色と同じ色のコアが。さはら達の目的、かなやを同胞へ…スラ娘へと変えるという目的が果たされた瞬間であった。
「うーん…」
かなやは真っ赤になった両手を見つめしきりに何かを念じるような声を上げる。
すると―。
さはら達がやったように、腕は触手状に形を変え、かなやの意のままにうねうねと伸び始める。
「うわぁ…」
驚きと感動の入り混じったような声を上げる彼女。そして、
「さはら…。さはらのからだってこんなにたのしいものだったんだね。」
どこにいるともわからないさはらに声をかける。繭が形成された時、スラ娘達は全て繭に溶け込んでしまい、今は大量の粘液が溢れる中かなや一人しかいない。だが、今のかなやにはさはらがすぐそばにいることを感じる事ができた。
「わかって…もらえましたか？」
嬉しそうな返事とともに、にゅるり、とかなやの正面にさはらの体が浮かび上がる。
「うん」
かなやはそう答え、しかし、その後急に黙り込む。そしてさはらの目を見つめ…。
「ね、さはら。ちょっとだけだいていい？」
急な言葉に少し驚くさはら。
「かなやさん…」
だが、かなやにそう言われて抱きしめられたくないはずがなかった。しばらくの沈黙の後、二人はお互いの腕を伸ばし、絡め、抱き締めあう。触れ合った場所は二人の粘液が混ざり蕩け合い、境目がわからなくなる。まるでお互いがひとつになったようなそんな錯覚さえ二人に与えている。いや、体は溶け合っているのだからその感覚は錯覚ではないのかもしれない。
―ちゅっ。
かなやが不意にさはらに口づけする。
「んっ…」
それを甘んじて受けるさはら。かなやが自分の舌をさはらの口の中へ伸ばしていく。
「んんぅ～…」
さはらも負けじと舌を伸ばし、二人は粘状の舌をくちゅくちゅと絡ませあい、甘い気持ちに浸っている。お互いの腕は段々と形が定まらなくなっていき、しかし先程よりも動きに激しさを増しながらさらに幾重にも重なるようににゅるにゅると互いの体に巻きついていく。体を先程よりも擦り寄せ、そのたびに二人の体はじゅるりと溶け合い、二人の体が一体化していく感覚がとても心地よい気分を与える。ただでさえ赤い二人の頬がさらに染まり、ピンクの色味を帯び始め段々と息が荒くなってきた。
――と、その時、
「あー、もう我慢できないよぉ！」
「わたしも混ぜてぇ」
「二人だけで楽しむなんてダメだよぉ」
繭に溶け込んだ後、邪魔をしまいと今まで黙って粘液の海に潜みながら傍観していたスラ娘達だったが、ついに痺れを切らし、あちこちから幾人ものスラ娘達が再びぐにゅぐにゅと沸き起こり、我先にと二人のそばへ粘液の海を滑るように寄ってくる。
「みんな…」
「みなさん…」
かなやとさはらの周りを先程と同じようにスラ娘達が取り囲む。しかし、かなやにはさっきのような恐怖感は微塵も無い。そして、
「………ふぅ」
さはらと絡みあいながら興奮した熱を冷ますように大きく息を吐き、
「うん。みんな、いっしょにあそぼっ！」
明るい笑顔を振りまきながら、かなやはそう返事をして仲間を招く。
その底なしの明るい表情を見せる彼女は、いつもと全く変わらないかなやだった。
「「わーい！」」
かなやの言葉を受けとった彼女達は、言うが早いか、かなやとさはらへ自身の粘液の体を絡ませ始める。
（ちょっと、残念だったです…）
さはらは顔には出さないが、少しふてくされている。もっと二人きりで抱き合っていたかった。そんな、少し我侭な気持ちが彼女の心にぽつりと芽生える。そんな時、かなやの赤色の手がさはらの腕を掴み…。
「ね、さはら」
「！…なんですか？かなやさん」
「――私、さはらと一緒になれてとっても幸せだよ――」
―――部屋を侵食したスライムの海はいつの間にか家全体を包み込み、その中ではねちゃねちゃ、ぐちゅぐちゅという粘液の音と、少女達の笑い声、喘ぎ声が木霊ししばらく鳴り止むことはなかった。
―fin