流石、愛野美奈子はおちゃらけたように見えてもセーラー戦士の中で一番の古 株だ。自分の家でくつろいでいるように見えても気配には敏感だった。鳴り響い た呼び鈴になにかを感じとり、変身を済ませ一歩…二歩………三歩、ゆっくりと ゆっくりと玄関へ向かう。  普通の来客ならば留守だと思い帰るだろう時間が経っていた。ようやくビーナ スはドアの前に立ち、ドアスコープを覗きまずぎょっとした。日本では一部でし か見られないであろう、赤いタキシード姿の女。軽く頭を下げ、股まである赤い 髪の三つ編みが風に揺れる以外は微動だにしない。彼女の表情はうかがえないが 決っして笑顔ではないだろう。  その張りつめた空気に思わず注視してしまうビーナス。だが彼女が見るべきは 自らの足元だった。外の女は身体の一部を赤い液状へと変え、既にドアと床の隙 間から徐々に侵入しビーナスへと迫っていた。  「なんのご用でしょうか?」  思わずかしこまった口調で訪ねるビーナス。  「申し訳ありません、少々お尋ねしたいことがあります。よろしいでしょうか?」  「はい、どうぞ…」  そう答えた瞬間だった。足元の赤い液体は一気に湧きあがり、じゅるじゅると 音を立てながら彼女の全身を絡めとる。  「くっ…なに、これ…!!」  身動きが取れなくなったところでようやくこういう形の罠であったことにビー ナスは気がついた。そして前にこんな敵と戦ったような気がし、記憶を掘り起こ してゆく。  その間に赤い粘液は手のような形を取るとするりとカギへ伸び、取っ手を回す。 かちゃんと音をがして開錠される。そしてゆっくりとドアが開く。  「おじゃまいたします…」  そう言うと女は音もなく一歩、また一歩と美奈子の家へと踏み入る。ビーナス は敵の名を思いだした。  「ジャーマネン…」  「覚えていていただけたとは、光栄でございます。」  ジャーマネンの後ろでドアがばたんと言った。