うさぎとネク
まだその思い出が鮮明なうちに、書き記しておこう。
この暗く冷たい星で、初めて出会った友人のことを。
まずは彼女と出会う前から書こうと思う。
それは仲間たちと引き換えに自分の身をデマンドに差し出して、まだ日の浅いときだった。その頃の私は、ただ自分の境遇に押しつぶされて、ひとり、冷たい部屋で涙を流しているのが常だった。この星で私に近づくのはデマンドただ一人。しかしその彼はといえば、私の内に残っていた温もりまでも冷たく上書きし、全てを奪おうと必死だった。冷たい空気とダークパワーは私から力を奪い、孤独と恐怖は私の心を病ませていった。
そんな日に、ふと、私の脳裏に浮かんだのだ。このまま消えてしまうのだろうか、と。闇に飲まれてしまうのだろうかと。……それは、嫌だった。私はふつうの中2の女の子だ。こんなところで、セレニティなどと呼ばれ、デマンドの手の内で消えてしまいたくはない! 私は、ここから逃げ出すことを決意し、初めて部屋の外へと歩き出した。
しかしその決意すら、あっさりと闇は飲みこんでしまった。歩けど歩けど同じ回廊が続き、なおかつネメシスは私の力を容赦なく奪っていった。結局、私は回廊の途中で意識を失ってしまったのだ。その眠りの中、私は夢を見た。20世紀の十番街。5人で買い物して、喫茶店でお茶を飲んで、そして帰り道に偶然まもちゃんに会って……楽しい夢だと思ったことを覚えている。
それから目が覚めると、私はやはりネメシスにいた。自室のベッドに横にされ、その私に声をかけたのは、デマンドだった。
「ここから逃げようなどとしたのか、無駄なことを。おまえは最早私のものなのだ。逃げることなど出来はしない。いい加減、それを認めたらどうだ」
確か、そういった言葉を投げかけられ、私は言葉を出す力もなかったから、かろうじて目で反論した。涙が溢れてきていたが、泣くものかと食いしばった。
今考えても、最低のセリフだ。とにかく自分の都合だけの。でもそれが、その頃の彼のいつもの言葉だった。でもだからこそ、彼が部屋を出ていく際の言葉はよく覚えているのだ。
「とにかく、無理をするな。お前だけの体ではないのだから」
そんな言葉は初めてだった。
その少し後だ、私が彼女に出会ったのは。それは最悪といっていい出会いだったのだけれど。