カテゴリ:妄想

読むと死にます。

2012/07/07

ジャーマネンさんVSマーキュリー(4)

セラムン新作発表記念。これのつづき。

 ジャーマネンは亜美と向きあい、くすりと笑うと、その口から舌を伸ばしはじめた。紫の舌は、ゆっくりと、しかし確実に亜美の唇を目指していた。20cm, 30cm、人ではありえない長さを持つ舌はべとべとの粘液で艶を放ち、さらにそれ自体が粘液を分泌しているのか、幾筋もの雫がぼたぼたと糸を引きながら滴り落ちていた。

 亜美は顔を歪め、身を捩り、可能な限りその舌から逃れようとした。だが手足が固定された状態では、限界があった。なおかつ、そんな抵抗を楽しむかのように、ジャーマネンは笑顔でゆっくりと舌を進めてくるのだ。

「殺す……ッ!! 絶対に殺してやるッ!!」

 だがしかし、舌は止まらなかった。紫のそれは、まず亜美の唇をべちゃり、べちゃりと舐め回した。無論、亜美は口をしっかりと閉じ抵抗した。顎の筋肉が攣りそうだった。その固くなった筋を溶かしほぐすかのように舌が顎を撫でたが、だがそれでも緩める気はなかった。目を見開き、ジャーマネンを睨んでいた。

 舌は突破口を見出そうと暫く顎と唇を舐め回したが、力も目の光も緩むことはなかった。が、しかし、舌は思わぬ突破口を見出した。閉じることが不可能な、すぐ近くにある二つの穴、鼻腔である。本来であればヒトの舌など入ろうはずもないそこだが、変幻自在の紫の舌はまたたく間に二股へ変化し、ぐじゅりと音を立て、いとも簡単に侵入した。

「う……ぐ……」

 蹂躙されながら、亜美の脳裏は嫌悪と殺意で埋めつくされていった。まずは今日勉強した参考書が、覚えた単語が、方程式が黒く塗り潰された。さらには今日の予定が、そして出来事が殺意に上書きされた。昨日も、一昨日の思い出も吹き飛んだ。明日の予定が消しゴムで消され、「目の前の敵を殺すこと」と記載された。

 そうして漏れ出る悪意は、ジャーマネンをさらに回復させる。そして、目の前の少女が、自らの意思で、自らを闇で塗り潰したその瞬間こそ、チャンスなのだ。闇を行使したその瞬間に、こう言えばいい。「きもちいいでしょう?」ただそれだけで、目の前の理知的な少女は、自らの力の意味を知るはずなのだ。

 ……そのはずだったのだ。

 だが、いよいよ臨界点を越えようとしたそのとき、亜美の中に、燐とした声が響いた。

 『だめ…………ッ!』

 その瞬間、彼女から漏れ出たのは、闇ではなく、光だった。ジャーマネンの赤い触手が、紫の舌がそれを浴び、白い光の中へと消え去った。本体は弾き飛ばされ、べしゃりと床に崩れ落ちた。

 すぐさま、自らの体を再構成する。頭を作り上げ、そして、その光の元を見た。

 白く輝く中で、少女の体へ、青い水のようなリボンが巻きついていった。ぴしゃんと音がすると、それは青を基調としたセーラー服へ変じる。

「私は、セーラーマーキュリー」

 光の中に浮いている、水と氷を操る、水と知性の戦士。彼女は、すうと、指をジャーマネンに向けた。

「闇の中でしか生きられない哀れな子よ。闇が消え光で満ち、汚れたあなたが消えてしまうその前に、せめて私が知性と光を伝え、その素晴しさを教えてあげましょう」

 その氷のような瞳を向けられた赤い体は、小刻みに震えていた。


 『だめ』という声を聞いた瞬間、亜美の意識は世界を飛び、視界は白で埋めつくされていた。自らを拘束していた触手はなくなり、目の前にいたはずの赤いドロイドの変わりに、白く目映い光を放つ少女が、幻のように立っていた。

「あなた、は……」
「私はセーラーマーキュリー。あなたの、前世」

 それは確かに変身した自らの姿に近かった。しかし肩には透明なパーツがあり、背のリボンも長い。他にも微妙な違いはあったが、何より違っていたのは、その目の前の彼女は、氷のような瞳で、亜美を、見下ろしていたことだった。

「……なに、あなた。私の、前世ですって?」

 自然と亜美の口調は強くなっていた。だが、セーラーマーキュリーはそれをまるで意に解さなかった。

「交代よ。あなたには任せておけない」

 部屋の隅に落ちている埃を見るような目で、彼女はそう告げた。

「……なに、交代って」
「頭、悪いのね、やっぱり。そのままの意味よ。今から私があなたの体を使うと言っているの」

 亜美はぎりりと奥歯を噛みしめていた。自らの内に生まれた赤いドロイドへの殺意を、遠慮なく目の前のそれに向ける。

「意味が、わからないわ。あなたの出る幕なんてない。私はあのドロイドを殺したいのよ!」
「……それが敵に力を与えてるの。愚かね。一度は私が力を貸して冷静にしてあげたのに」

 ふぅと息を吐きながら、彼女は告げた。

「まあ、あなたがなんと言おうと交代よ。あなたの体は、とうの昔に私のものなのだから」
「……え?」
「気付いていないなんて救いようもないわね。銀水晶の力で転生をしたとき、既に滅びていた人間の体から、銀水晶の力で型付くられた光の体に移されたのよ」
「……なんですって……」
「それなのにこんな闇の感情を吐き散らされては、体がもたないわ。プリンセスから与えられる光が無ければ、あなたは生きられないのに」

 亜美は、理解した。自らが既に人間ではない、そう、彼女は言っているのだ。変身ペンを置けば、いつでも辞めることが出来る、そう思っていたのに。自分は、もう。怒りの感情を持つことすら許されず。そしてあのプリンセスと共に生きるしかないのだ。身が、凍える。私は、私は……

「もう駄目ね、あなたは。またそうやって闇に取りこまれるのだもの」

 だって、私は、人だから。そう口に出すことすら出来なかった。ただ、身が、心が、冷たかった。膝を降り、体を震わせる彼女へ、セーラーマーキュリーは最後の言葉を告げた。

「光に憧れながらも、容易く闇に取りこまれる人間よ。いままで置いてもらっていたことに感謝なさい」

 その瞬間、亜美は光の中を落ちていった。どこまでも、どこまでも……


……どうして、こうなった……。次どうしよまじで。


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書いた日: 2012/07/07 23:14 カテゴリ:妄想


作成:スラマイマラス
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