仕事から帰るとポストに不在票が入っていた。 宅配便がくるような心当たりは無いが、 いちおう書いてあるドライバーの携帯番号へと電話することにした。 大方の予想に反して電話から聞こえてきたのは女性の声であり、 丁度近くにいるのですぐに配達するとのことだった。 そして電話を切ると本当にすぐにチャイムが鳴った。
「すみませんが黒月宅急便です。荷物をお届けに参りました。」
さっき電話に出た女性の声だ。 返事をし、玄関を開けると運転手にはふさわしくない、 しかし女性にはふさわしい甘い香りがした。
「はい、お荷物こちらになっております。サインお願いします。」
手際よく渡された伝票にサインをする。 ふと彼女の顔が気になったので見るとサングラスはしていたが、 整った顔立ちをしていて、そうとうの美人だと思われた。 しかしそれと共に頬など妙に顔が赤いのが気になった。 サインを済ませた伝票を渡しつつ声をかける。
「どうしたの?妙に顔が赤いけど、風邪でも?」
「いえ、そういうわけではありません。元々顔は赤いのでして…。 あら、それにお客様の顔も赤いですわ。」
「はは、こりゃまいったね。君があまりに美人な気がしてさ。 ちょっとそのサングラス外してもらえないかい?」
「ありがとうございます。そうですね、また会うことがあれば外しましょう。」
「つれないな。そういえばこの香りはなんだい?とてもいい香りだけど…」
「それはきっとすぐにわかると思いますわ。では、失礼します。」
彼女は僕に荷物を渡すと扉を閉め、僕は逃げられたな、と思った。
しばらくして冷静になると、僕の手元にはどこからなのか、 なにがはいっているのかまったくわからない30cm四方程度の小包が残されたことに気がついた。 荷物の送り主である「おまじないハウス」に心当たりはまったく無い。 しかし送り先は間違いなく僕の住所で、僕の名前になっていた。 このご時世、受取拒否も考えていたが持ってきた彼女は帰ってしまった。 少し考えた末、とにかく開けてみることにした。
中にはすこし小さめのワインボトルが入っていた。 さすがに知りもしない送り主から届いた飲食物など、 なにが入ってるかわかったものではないので捨てるしかないと考えていたら、 一緒に紙がはいっていた。そこには僕が新製品のモニタに選ばれたということ、 このワインは飲用ではなく入浴剤であること、 そして使いかたの説明とこの説明を厳守することと書かれていた。 入浴剤ならば問題は無いだろう。 それに彼女はあの甘い香りのことをすぐにわかると言っていた。 もしかしたらこれのことかもしれない。身体の疲れも取れるかもしれない。 僕はすぐさま使うことにした。
まず風呂の栓をし、それからお湯ではなく水を5cmほど張ったら蛇口を止める。 この入浴剤の栓を抜き、瓶ごと立てて置く。 すると瓶から赤い液体が出てくるので風呂の蓋をして10分ほど待てば完了、 と説明には書いてある。 となるとこの瓶から風呂を一杯にするほどの赤い液体が出てくることになるが、 とても信じられない。 信じられないがとにかく厳守と書いてある説明の通りにやることにする。 水を張り瓶を栓を開け立てて置くと、 確かに赤い液体がごぼりと音を立てて出てきた。 そしてドライバーの彼女からしたあの甘い香りも充満した。 確かにこれだったのだ。俺は風呂の蓋を閉め、10分程度待つことにした。
第0話・完