10分経過した。俺は服を脱ぎ風呂場へと入り、そして風呂の蓋を開ける。 とたんに甘い香りがあたりに充満する。さきほどより濃い、 まるであたまが溶けていくようなほどの、甘い、あまい香り。

しばらく香りを堪能したところで、 あらためて風呂桶を見るとまるでワインのような真っ赤な液体で満されている。 湯加減を見るため手を入れる。

ぬるり。その予想だにしない異様な感覚に手をひっこめると、 その液体は粘りを持って糸を引く。それは液体の中に手を入れた感覚ではなく、 そう、まるで、女のなかに手をつっこんだかのような感覚。異様だが、しかし…

もう一度落ちついて手を入れてみる。 ずぶりと液体は手を受け入れぬるぬると沈みこんでゆく。きもちいい。 ちょうど人肌の温度のぬるぬるが手を心地良く包みこむ。 その感覚だけでぞくぞくと鳥肌が立つ。

そして手を動かし、掻き回してみる。 液体はぬるぬると手を、腕を、指の間を指の先を刺激する。 女のなかに腕をつっこんでぐちょぐちょと掻き回すような、そんな感覚。 その刺激だけで俺の股間は熱り立ちはじめ、そして、期待に満ちてゆく。 この液体をここにかけたとき、そして全身がはいったとき、その快感は…

期待に震える手で洗面器を取りだす。 そして風呂の液体をすくいとり、怒張の上でゆっくりと洗面器を返してゆく。 液体は重力に従いどろりとゆっくり流れ落ち、そしてついに俺に襲いかかる。 それはべとりと先端に到着するとどろどろと流れながら俺のものを包みこんでゆく。

まるで挿入したかのような、その感覚。 それが先端から根本、袋、どんどん下へと、液体はねとりと絡まりつつ降りていく。 もう限界だ、でそう、出したい、もっと直接な刺激が欲しい!!

右手を興奮の中心に伸ばそうとしたとき、それは起こった。

「お待ちくださいませ。」

突然、女性の声。一気に我に返る。 風呂桶には赤い液体が充満し自分は赤い液体にまみれ、 さらには自分で楽しもうとした矢先の、女性の声。動揺する。思わず叫ぶ。

「だ、誰だ!!どこにいる!!」

「こちらでございます。」

その声は外からではなく、風呂桶からしていた。 見れば風呂の液体が風もなく波立ちはじめ、そして噴水のように立ち上ったかと思うと、 それは人の、女性の形を取った。全身が真っ赤の、裸の女性。

「お邪魔いたします。」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

俺は驚きその場から逃げようとする。しかし、足が動かない。 見ればさっき自分にかけた赤い液体が俺の足を床に縛りつけている。

「お逃げになる必要はありません。 ついさきほどお会いしたばかりではありませんか。」

彼女のエメラルドグリーンの瞳が悲しく輝く。 目の前にいるのは確かに人間ではないのに、確かに悲しく輝いたように見えたのだ。 俺の頭は冷静さを取り戻してゆく。そう、その声は聞き覚えがあった。

「まさか、これを運んできた運送会社の…」

「はい、さきほどは名乗りませんでしたがジャーマネンと申します。 サングラスも失礼致しました。」

そう言いつつ深々と礼をする彼女、 ジャーマネンの礼儀正しさに俺はすっかり警戒心を解いていた。 だいたい彼女が襲うつもりなら最初会ったときに襲っているはずだ。

「何故、こんな手のこんだことを?」

「それは、裸のおつきあいをしたかったから、です。」

男と女(?)の裸のつきあいと言えば…。俺は少し赤くなった。

「ふふ、さきほどあなたもしたそうだったではありませんか。 だから、一緒に楽しみましょう?」

ジャーマネンはそう言うと俺に近づき、キスをした。深い、深い、キスだった。 舌がにゅるりとはいってきた。俺の舌と絡まり、そしてそれを包みこんだ。 それとともに俺のなかに甘いものが流れこみ、俺は思わず飲み込んだ。 焼けるような甘さだった。喉、食道、胃へと流れていくのがはっきりわかった。 ジャーマネンは口を離す。

「どうでしょうか、私の味は。お気に召したでしょうか。 ふふ、私にはあなたがどうしても必要なのです。 だからあなたを私なしでは一刻もいられないようにして差しあげます。 よろしいでしょうか?」

この充満した甘い香りと、俺を満たしはじめた甘い味が、俺を誘う。 だがしかし、俺はあくまで自分の意思でうなずいていた。 俺が必要だと言った彼女の、だがその瞬間見せた悲しい瞳がどうしても気になったのだ。

ジャーマネンは少し笑った。ように見えた。

「では、遠慮なく…」

彼女からもう一度キスを受けた。


第1話・完

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