日差しが西へと傾くのもすっかり早くなり、空はオレンジ色に変わりかけている頃。
部活動とは縁遠い俺達4人はいつものようにどうでもいいことをだべりながら、いつもの校門をくぐる。
そんな日常を壊したのは、その場で後ろからかけられたこの一言だった。
「少し、よろしいでしょうか?」
振り返って驚いた。
メイド服を着た女が校門の前に立っていたのだ。
しかも背後の夕焼けに彼女の赤い二股の三つ編みが溶けこみ
顔にはやわらかな気品ある微笑みを浮べる美人さん。
後光が差すように見えるのは夕日のせいだけではないだろう。
しかし明らかに違和感のある目立つ風貌であるにも関わらず
俺たちのだれもが校門を通ったときに気付かなかったし
他の学生達も催眠術をかけられたようにスルー。
声をかけられた俺達だけがその違和感を認識している、そんな状況に見えた。
「な、どういったご要件でしょうか?」
ツレの一人が、緊張だろうか妙な敬語で答えると
笑顔で立っていたメイドは深々と礼をしてからこう言った。
「ご主人様が、あなたがたにお礼をしたいと申しているのです。ご同行願えませんでしょうか?」
ご主人? お礼?
どの単語にも心当りはない。
人違いではないか、そう答えようとした瞬間だった。
ツレのひとりがニヤつきながら答えたのだ。
「わかりました、喜んでついていきます!」
俺は焦ってそいつに問いかける。
「お、おい、お前… 心当りあるのかよ」
「ん、いや、無いけどな。でもきっと美味しい話だぜ?」
そいつはきひひと笑いながら答えた。
メイドに連れられて到着したのは
とあるホテルの最上階の一室。
そこがいわゆるスイートルームであることは
馬鹿な俺達にも見ただけでわかる高級感。
とんでもないところに来てしまった。
そんな恐怖感に煽られる俺だったが
ツレたちはと言えば興味深そうに物珍しく周りを見回していた。
そこへ奥から紅茶を入れてきたメイドが
「こちらにお座りください」と豪華なソファーを示した。
その紅茶は格別の味だった。
暖かい液体が体を内部からやわらかくほぐすように
まるで自室の風呂に入ったようなリラクゼーションを与えたのだ。
たかが、茶一杯で。
それをにこにこと見ていたメイドは
全員が紅茶を口にしたことを確認すると
俺達にこう語りかける。
「では、わたくしがお礼を差し上げますので
おひとりずつ、あちらの寝室へお越しください」
それだけ言うとメイドは一礼し
ぱたんと、ドアの向こうの寝室へと消えた。
メイド 寝室 お礼…
若くて夢が多く、疑うことも知らない俺達には
それは最早「メイドが身体でお礼をする」としか思えなかった。
すぐさま白熱のジャンケンが始まり…
そしてあっさりと俺は負けてしまった。
「…か、勝った…ッ! 一番のりいただき!」
順番が確定するまで、さほどの時間はかからなかった。
威勢の良い勝ち名乗りを上げた男はスキップで寝室への扉へ向かい
「じゃ、いってくるぜ〜!」
と陽気にドアを開け、だらけた笑顔で中へと消えていった。
そして残された俺たちは、誰もがにやついていた。
「…おい、やっぱメイドってすげーのかな…」
「…そりゃ、そういう技術だって教えられてるって聞くぜ?」
「ご主人さまに奉仕しなきゃだもんな」
「初物じゃないけど、あのとき以上のいい思いだろうなぁ…」
"あのとき"というのは、つい一週間前
俺たち4人でひとりの女をレイプしたときのことだ。
そいつは黒髪の長髪で眼鏡をかけた、クラスの委員長だった。
規則を守ることしか脳がない、つまらない女だった。
そんな女が、何故か遊び人の俺に告白してきたのだ。
当然校則で持ち込みが禁止されている携帯など持っておらず…
彼女は今時、ラブレターで呼びだしたのだ、この俺を。
俺達はそのラブレターを見て笑い
そして遊び半分でそこへ行った。
なんの変哲もない、ごく普通の告白をされた。
つまらなかった。なんの価値もない女に見えた。
だから、犯してやったのだ。笑いながら。何度も何度も。
…女は涙を流したが、しかし抵抗はしなかった。
そこだけは立派だと思った。
だが次の日から、そいつは学校に来なくなった。
「やっぱ来なくなっちまったか」
俺たちは顔を合わせて笑ったのだ。
「…なあ、ちょっと聞いてみないか?」
誰ともなく、そんなことを言った。
「いいね」「賛成」
断わる理由はなかった。
俺たちはここと寝室を隔てるドアに耳を当てた。
グチュ、ズプ、ジュル、クチャ、グチュ、ヌブ…
微かに聞こえてきたのは、ぬめる粘液の擦れあう音だった。
「おい、やっぱそういうことなのか?」
「いや、俺、本当は半信半疑だったけど、マジかよ…」
「しかし、すげえなこの音。腕でも突っこんでんのか?」
ジュム、ジュル、グジュ、ジブ、ジュル、ヌル…
「…は、は、あ、あは、はひぃ」
「おいおい、あいつ、凄い声出してんな」
「…つーか、声になってないじゃねーか」
「これは期待せざるを得ないな」
ブジュ、ジュ、ジュル、ズル、グジュル、ムジュル…
「おいおい、なんか音が大きくなってるぞ」
「激しくもなってるな…」
ごくり。
誰かが生唾を飲む音が聞こえる。
「…開けて、みるか?」
「……ああ」
そうして俺たちは音を立てないよう
ゆっくりとドアを開け、中を覗き見た…。
ギュチュ、ズル、ジュル、ズル、ジュル、ギュル…
ベッドの上の全裸の男にメイド服の女が跨り
粘液が擦れあう淫靡な音を大きく響かせていた。
女の腰が動くたび、じゅるりと大きな音が響き、男は喘ぎを大きく上げる。
目の前で展開されているこの光景は一見、男女の営みだった。
ジュル、ニリュ、ブニュ、ズニュ、ズリュ…
だが、それははっきりと異常な部分があった。
あひ、あひと喘ぐ男は涙を流しながら
腕をばたばたと藻掻かせながら
スカートから逃がれようとしていた。
ニジュ、グジュ、ジュル、ブジュ、ジル…
音が一層大きくなったかと思うと
メイドのスカートが大きく波打ち、男の体を自らの奥へと運んでゆく。
まるで魚を食らうイソギンチャクか咀嚼したものを運ぶ食道のような動き。
…それは人ではありえないものだった。
藻掻く男の体はその甲斐もなく、さらにスカートの奥へと消えてゆく。
消えるたび、涙を流しながら、男の喘ぎは大きくなっている…!
ジル、ブジュ、グジュ、ニジュ…
泣き喘ぐ男とは対照的に、メイドは喘ぎひとつ上げてはいなかった。
ただ、無償で与える、慈悲深い笑顔がそこにあった。
右手は涙を拭くように、そっと男の頬を撫でていた。
そして左手は…ぐむぐむと咀嚼するように蠢く腹をやさしく擦っていた。
グジュオ、ジュルゥ、ムジュウ、ジニュウ…
音が大きく、しかしゆるやかに変わりはじめた。
メイドの三つ編みがひとりで重力に逆らい動きはじめる。
先がどろりと溶け、手のような形になる。
そしてしゅるりと男の首に巻きつき、肩をがっしりとつかんだ。
その瞬間、涎を垂らして泣き叫ぶあいつと、俺の目が合った。
「…た、たす………たすけて…」
しかしメイドの三つ編みはあいつの身体を
一気にスカートの中へと押しこみはじめたのだ。
ジュ、ジュルルル、ギュルルルル……
男の肩が、男の首が、男の口が、男の顔が、男の頭が、男の全身が
スカートの中に入るはずのない体積が、しかしスカートの中へと消えた。
まるで異次元にでも消えてしまったかのように。
「ふふ…」
未だ蠢く腹を撫でながら、メイドは笑っていた。
そしてベッドからすっくと立ちあがり、ドアの、俺たちのほうを見た。
たん、たん、たん…
足音が、こちらに向かってくる。
その間もぐむぐむとメイドのスカートは蠢いている。
そこにはうっすらと男の顔が浮びあがっている。
苦しげな男の顔の口が大きく広がると、びくりとスカートが揺れる。
「…ひ、ひぃ!!」
ツレの二人が逃げだそうと反転し部屋の出口に走る。
が、その瞬間しゅるりと二人に向かい赤い光線が飛ぶ。
…それはメイドの三つ編みだった。
それが2,30mほども伸び、二人の首に巻きついていた。
首を掻き藻掻きくと、ほどなく、二人は気絶した。
たん。
足音は、まるで動けなかった俺の前で止まった。
メイドはスカートを蠢かせながら笑っていた。
「…お、俺のツレを、ど、どうしたんだ…!」
俺の虚勢に、メイドは腹を撫でながら答えた。
「ふふふ、ご心配には及びません。
彼には、私の中でお礼を差し上げているのです。
溶けるように甘美な、快楽の時間を…」
そして、こう付け加えた。
「あなたには、ご主人様がお会いになるそうです」
「…ご主人様…?」
じゅるり…
その音は、メイドの足元から聞こえてきた。
ふと見れば、スカートの奥から赤い粘液が溢れ出ていた。
なんだ…?
疑問に思った瞬間
それは噴水のように俺に飛びかかってきた!
びしゃあ!!
全身で赤い粘液を浴びる。
と、粘液は意思を持つようにずるずると俺の全身を移動し
俺を拘束しながら、目の前にある形を作ってゆく。
それは人の形だった。
粘液からは女の声がした。
「ひさしぶりね…」
その声、そして形には覚えがあった。
そう、1週間ほど前、俺に告白してきた女のものだったのだ。
「…あのときはごめんなさい。
私、知らなかったの。あなたがそういうことを求めていたなんて」
くすくすと笑いながら、粘液は続ける。
「悔しかった。好きなひとが好きなことに気付けなかった自分が悔しかったの。
……そう思ってあの場で泣いていたら、彼女、ジェラがやって来て…
そして教えてくれたの。男のひとが喜ぶことをたくさん、たくさん…」
形こそあの女。
しかしその妖艶な笑みは、彼女からは想像も出来ないものだった。
「ジェラの体の中で、いろんなことを、体で教えてもらったわ…
私知らなかった。実践的な勉強って学校よりも楽しいのね」
そこには既に狂気すらも浮んでいた。
「そう、体も変えてくれたの。あなたが喜ぶように…
あなたの好みへと自在に変わることが出来る
あなたのどんなことでも受けいれられる
あなたをもっと気持ちよく出来る身体。
どう? 素敵でしょう?」
粘液の問いに、俺は答えられなかった。
「…わからないのね、この素晴しさが。
いいわ、教えてあげる、私が」
粘液は後ろのメイドに指示を出す。
「ジェラ、そこの二人を呑みこんで差しあげて。
ひとりずつ、お礼を差しあげるのです」
「かしこまりました。」
メイドは答え、気絶している二人を寝室へと運ぶ。
「さあ、私たちも行きましょう? 彼が気持ちよくなる様を一緒に見るの。
そして教えてあげる。それがどんなに素晴しいかを。」
じゅるじゅると、粘液は俺を拘束したまま寝室へと運んでいった。